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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
魔女との出会い編
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第3話 「師匠は凄い」⑤

 一応ファーラに確認すれば、尋ねた相手より対象であるグレースが「私の所は多い方ですね」とたおやかに微笑んだまま答えてくれた。やはり、町同様弟子の数も例外なようだ。


「――ん? 上位と下位?」


 いつもそうだが、今日もまた色々と知らない単語が飛び出している。思わず呟くと、質問の体も取らないそれに、今度はニーロが答えた。


「すまない。そういえば大事なことを教えていなかったな」


 どうやら本来は、もっと早くに教えておかなくてはいけないことだったらしい。ニーロが早々に反応したのは、それを思い出したからのようだ。


 言下に腕を空間に伸ばしたかと思うと、手先は消え、間も無く引き抜かれた手に巻物が握られている。それが机の上に広げられると、八つの四角形が横一列に並んで描かれているのが最初に目に入った。


「私や私の師が魔女になるよりずっと前、増え始めた弟子を区分するために階級が定められた。それは下は七級から、上は特級まである」


 節くれだった指先が紙の上の四角形を順になぞる。それの中には七級、六級、五級、四級、三級、二級、一級、特級、という文字が書かれていた。よくよく見れば、四角と四角の間には矢印が書かれており、その下には色々と説明が書かれている。


「ここに書かれているのは昇級の条件だ。必要な知識はあるか、必要な技術はあるか、人格は適切か、向上心はあるか、そして、規定数の魔女の許可は得られたか」


 曰く、弟子が昇級する場合、本人の資質の他に、師匠以外の別の魔女から「この弟子は昇級させても問題ない」という許可を貰う必要があるそうだ。その数は七級から六級への三人から始まり、二人ずつ増え、一級から特級に上がる時は15人もの魔女に許可をもらう必要がある。


「ちなみに、ファーラは一級だ」


「えっ!?」


 思わず驚いて振り返ると、ファーラは両腰に拳を当て胸を張った。わざとらしく誇らしげな顔に少し驚きは収まるが、やはり完全には消えない。


「年とか、弟子になった年数とかは関係ないんですね」


 条件には書いていないが、暗黙の了解としててっきり経年によっての条件もあると思っていた。だが、魔女界にはどうやら関係ない話のようだ。


「ええ、必要なのは能力と人格ですから。……ちなみに、それだけでしたらファーラはあと二、三年もすれば特級になれるだけの力があります」


 特級まで、と驚いてから、ブリジットは含みのあるグレースの言葉に首を傾げる。


「それだけではないのですか? あ、魔女様の許可……?」


 もしやニーロの娘ということで15人も魔女が賛同してくれないのだろうか。50人もいるのにそんなことが――と悲嘆的な顔をしてしまうと、当のファーラが否定してきた。


「いえいえ、単純に僕に魔力がないからですよ。特級の弟子っていうのはつまり次期魔女候補。残念ながら魔力がなければ魔女にはなれませんからね」


 残念ですが、とファーラが笑いながら肩を竦めると、本人以上に残念そうにグレースが頬に手を当て眉を寄せる。


「ファーラは本当に、魔力がないのが惜しまれます。知識も理性も向上心もあり、人に教えることも上手く、魔女への敬意もある。さらにニーロの方針をそのまま引き継げるだけの心もある。ですから、15人を優に超える魔女たちに認められています。それどころか、末は三大魔女に数えられてもおかしくない魔女になっていたでしょうに……」


 べた褒めされ、ファーラは「いやー、それほどでもー」とにこにこしながら後頭部に手を当てた。その横顔を眺めて嬉しさを感じると同時に、ブリジットは心の端で焦りを覚える。


 それだけ優秀なファーラを、魔女たちは当然覚えているだろう。ということは、ブリジットは否応なく比較されるのだ。この優秀な少女と。果たして彼女と比肩するだけの能力を持てるのだろうか。失望されたりはしないだろうか。


 笑顔の下で焦りと悔しさと情けなさを混ぜ合わせた思考を回していると、ファーラが視線を向けてきた。


「ブリジットさん、聞きました聞きました? 僕ってそれぐらい優秀なんですよ」


 自分を指差し、ファーラは跳ねるような声で褒められたことを確認してくる。幼い子供らしい様子に可愛らしさを覚えると同時に、焦りが更に加速した。それでも必死で表情を隠し是を唱えると、ファーラはにっと歯を見せて笑う。


「こんな優秀な僕が、あなたを支えるんです。知らないことは何でも教えます。分からないことは一緒に考えます。立ち止まりそうな時は背中を押しますし、何なら腕を引いて歩きます。だから、安心してください。僕の全力を持って、あなたが素晴らしい魔女になるサポートをします」


 まるで太陽のような真っ直ぐな笑顔と眼差しは眩しく、向けられる思いはただただ「献身」の一言に尽きた。


 そんな彼女に、ささやかながらも確実にネガティブな感情を向けていた自分に気付いたブリジットは、途端に恥ずかしくなり、その小さな体を抱きしめる。


「うぅ、ファーラちゃんがカッコいいよぅ」


「あはは、覚悟を持てばどんな人でもカッコいいですよ。ブリジットさんもきっと将来カッコいい魔女様です」


 ブリジットを抱き締め返しつつ、ファーラは宥めるようにその背中をぽんぽんと叩いた。その少女たちのやりとりを、魔女たちは微笑ましく見守っている。



お読みいただきありがとうございます!

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