第2話 「あなたの味方」⑥
昨日気に食わない相手に喧嘩を売るような真似をした自分を省みて、ブリジットは密かに「似た者同士だ」と一層の親しみを覚えてしまう。口に出したらニーロに「駄目な方向に意気投合するんじゃない」と怒られそうなので、口にはしないように気を付けた。
「もうあいつのことはどうでもいいですから、さっきまでのお話の続きでもしてくださいですよ」
不貞腐れたままファーラに促され、ロザリアはそうだったわ、と思い出したようにアマリアに視線を向ける。
「そういえば18人だったわね。ありがとうアマリアちゃん、やっぱり記録の魔女はしっかりしてるわね~」
「いえ、本日はニーロ様の元にお伺いすることになったので改めて読み直していただけですから」
「……あまり幼い頃の話は読み返さないでもらいたいんだがな……」
謙遜ついでに自分の過去をおさらいされた事実に、ニーロは何とも言えない様子で顔を歪めた。口元に手を当て「ごめんなさい」と慌てた様子を見せるアマリア。それとは真逆に、ロザリアは「いいじゃない別に」ところころ笑う。
その穏やかな様子に自然と笑みをこぼしていたブリジットだが、ふと、ある単語に引っかかった。
「読み直して?」
覚えず声に出したそれは小さなものだったが、耳の良いファーラはすぐさまそれを聞きつける。
「あ、すみません記録の魔女についての説明がまだでしたね」
ブリジットへの説明係は自分だ、とばかりのファーラに、ブリジットは頼む意味を込めて彼女に数度の頷きを見せた。
「以前からお話ししている通り、『魔女』は先代から継承され、冠名は本人の得意な魔法などから付けられます。〝一部の例外〟を除いては、先代と本人の冠名はよっぽど同じ性質や考え方じゃない限り別のものになります。お師様の『茨』とお父さんの『空間』みたいな感じですね」
一番分かりやすい例を出され、ブリジットは今度は納得の意味を込めて頷く。
「逆にまったく無関係だけど、性質が同じために同じ冠名が付くことはありますが、その場合は別の代になります。もし同じ代で被りそうな場合は、能力が高い者が優先されるですよ。この能力は大抵魔力のことですね――ってまあそれは置いておいて」
見えない箱を動かすような動作をしてから、説明中にすっかり機嫌が直ったファーラは、指先を揃えた手をそのままアマリアに向けた。
「こちらのアマリア様が継承した『記録の魔女』と、もうおひとりの方が継承した『忘却の魔女』。このふたつの魔女は先程言った『例外』に当たります。初代の魔女から脈々と同じ冠名を引き継ぎ、魔女のために力を使ってくださっています」
説明を受け、アマリアは腰に手を回して、留めていた大きく分厚い本を取り出す。アマリアの手にある内は一枚の紙のように軽そうだったのに、机の上に置かれた瞬間、質量を取り戻したように太い音を立てた。
「折角ご紹介いただいたのでこのまま記録させていただきますね。こちらは魔道具『千代の綴り』。記録の魔女に代々伝わる魔道具です。三代目記録の魔女によって作成され、魔女に関するあらゆることを記録しています」
魔女に関するあらゆることを記録。その言葉に、ブリジットは昨晩のことを思い出す。
そういえば彼女は、ブリジットのことを記録する必要があるから、と今日ここに来ることを求めていた。何を記録されるのだろう。師の様子から、色々明かすべく言葉を尽くす必要があることを思い、ブリジットは緊張した面持ちになる。
しかし、アマリアは穏やかに笑って「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」と本を開いた。固そうな表紙を開けば、それはひとりでにページを送り出す。
気になったのは全てのページが真っ白だったことだが、それはファーラが「千代の綴りは記録の魔女にしか読めない仕組みになってるですよ」と小さい声で教えてくれた。
不意に本の動きが止まる。中央辺りで開かれたページに片手を乗せると、アマリアは自身が手を当てていない方のページをブリジットに示した。
「こちらに手を乗せてください」
促されるままブリジットが片方の手を乗せると、アマリアは僅かに顎を引く。もしかして目を瞑ったのかもしれないが、元々瞑っているような細目なのでよく分からない。
「『千代の綴りよ、新たな者を、綴りませ』」
詠唱が唱えられると、ブリジットの頭上に金色の文字で出来た輪が発生した。周りが暗く思えるほど輝かしいそれは、強めの風を巻き起こすように横に回転しながらゆっくりと下降してくる。こんな強い光、目を閉じなければ。そう思っているのにブリジットの瞼は動かない。
ついに額を越えて眼前に来た文字の輪を、見開いた眼で見つめていると、何か大きなものに頭を覗かれているような感覚に陥った。
しかしそれも僅かな間で、輪は鼻の上を通り、顎を越え、胸の辺りに着くと一部が切れ端から本へと飲み込まれていく。
そうして逆端も本に飲み込まれると、ブリジットの視界は一瞬暗くなった。強い光を見た直後のせいか、と思っている間に、その視界は再び元の明かりを取り戻す。
「い、今のは……?」
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