第2話 「あなたの味方」③
「そうよぉ。だけど、血はつながってないのよ。ニーロのお師匠様のことは知ってるかしら?」
「茨の魔女だった、ということはファーラちゃんから」
ブリジットが素直に答えれば、そういえば話していなかったな、と言わんばかりにリッドソン親子が気付いたような顔をした。
そんな二人を見て、ロザリアは「私に姉さまのことを話す機会を取っておいてくれたのね」、と好意的に解釈して彼らに礼を述べる。
「姉さま……ニーロのお師匠様のお名前はナージャ・リッドソン。知っている通り、茨の魔女だった方よ。その茨に込められていた願いは、『攻撃的な防御』。守ると決めた者を誰にも傷付けさせないという、強い意思の表れだったの。私もニーロもね、そんな姉さまに助けられたのよ。とっても優しい方だったわ」
昔日を懐かしむように緑色の双眸が細められた。
ロザリアは語る。
助けられてからしばらくの間彼女の元にいたが、やがて別の魔女の元へ弟子入りしたことを。それからも足繁く「姉」の元に通い、その内にニーロと出会ったことを。
「ええと、48年前だったかしら? まだ四つだったニーロを姉さまが連れてらっしゃってね、当時はもう大騒ぎだったわ。だって、魔女とされた女に味方して追われた殿方はそれまでもいたけど、魔力を持っている者はいなかったんだもの。そりゃあびっくりするわよね。ブリジットもびっくりした?」
問いかけられ、ブリジットは苦笑しながら肯定を返す。あの時は本当に驚いた。それまで常識としてあった「魔女=女」という前提を大きく覆す存在が目の前にいたのだから。同意を得たロザリアは「そうよねぇ」と数度頷く。
「それでね、当時の魔女の間でもニーロのことは問題になったの。でも姉さまが『私が助けたんだからどうするかは私が決めるわ』って仰って。姉さまと親しかった方たちの支援もあって、ニーロはそのまま姉さまの養子になったのよ」
助けた子供を養子に。どこかで聞いた話だ、とちらりとブリジットの視線が脇に向く。ファーラはお茶の準備にでも行ったのか席を外しているが、当のニーロはそこに立ったまま待機していた。
弟子の視線に気付くと、ニーロは少し照れた様子で軽く咳き込むように喉を鳴らす。色々と師の真似をしているらしい。ブリジットはくすりと微笑んだ。
「うふふ、私もファーラを養子にするって聞いた時同じこと思った」
ブリジットの視線の意味に気付きロザリアが楽しげ笑う。言葉尻が跳ねるような声はからかう色を含んでおり、ニーロは顔を隠すように眉間を揉んだ。
「……以前にも申し上げましたが、最初はそんなつもりはなかったのです。ただ、私の元に人を置きたくない面々とファーラの意見が真っ向から衝突していたので、ならばと師に倣ってみたまでです。――子供の相手は、その前にもしていましたし」
言い訳を重ねるニーロにロザリアはくすくす笑いながら「そうね」と納得を示してみせる。
それに笑顔で追従するブリジットだが、その裏では師が付け足した「子供の相手は」という部分が気になっていた。ただ単に年少者の相手をしてきたことがある、という意味なのだろうか。それとも、本当に子供でもいたのだろうか。気にはなったが、流石にまだそこまで踏み込む勇気は湧かない。
「でもそういうのを見ると、やっぱり私があの時あなたを引き取ってあげられなかったのが情けなくなってくるわねぇ」
ふぅと溜め息をついて、ロザリアの表情は先ほどと打って変わってしょんぼりしたものに変わってしまう。ニーロはそんな彼女の肩を優しく支えた。
「ロザリア様、もうお気になさらないでください。あの時は、あなたも魔女になったばかりだったのですから。それに、あなたには今も含めて十分良くしてもらっています」
でも、とロザリアはまだ肩を落としたままである。その様子を横から見ているブリジットは話についていけずそわそわしていた。先ほどの疑問に続いて、問い直して良い話題なのかの判断がつかない。
そんな困った感情が顔に出ていたのか、ふと視線を自分に向けたニーロが何かを察したように僅かに口元を緩める。
「確か、私の師や姉妹弟子たちが魔女狩りで命を落としたのはファーラに聞いているんだったな?」
「はっ、はい」
話したことをお父さんにも言ってある、とファーラから聞いていたのだが、こうして本人から確認されると少し申し訳ない気持ちになった。踏み込んではいけない過去に土足で踏み込んでしまったような、そんな気持ちだ。けれど、当の本人はまるで気にしていない様子で話を続ける。
「その時にひとり生き残った私を、ロザリア様が引き取ると言ってくださったんだ。だが、まだ魔女になって数週間しか経っていない頃だったので、他の魔女たちに止められてな。そのことをずっと気にしてくださっているんだよ。私としては、真っ先に声をかけてくださったそのお心に救われたのだがね」
感謝してもしきれない。そう言葉を区切ったニーロに、ロザリアは感激したのか双眸にうっすら涙をためた。
ああ、この顔見たことがある。誕生日に花を贈り感謝を伝えた時の母の顔と同じだ。ブリジットがそんなことを思っていると、完全には閉まりきっていなかったキッチンの扉が押し開かれた。
「お待たせしました~。ファーラちゃん特製ハーブティーですよー」
予想通りお茶の準備をしていたファーラが、ティーカートを押しながら戻ってくる。ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「ああ、立ち話をさせてしまって申し訳ない。どうぞロザリア様、お座りください。ブリジットも座りなさい」
勧められるがまままずロザリアが席に着き、続いてニーロが、それを確認してからブリジットが席に着く。
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