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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
腐食の魔女編
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第14話「認められざる魔女」③


「はい、じゃあみんなは部屋で待ってて。私はお茶入れてくるね」


 扉を開けて中を示してから、キャシーはパタパタとさらに奥に小走りで駆けていく。


 開けられた扉からルネッタが、レナに促されファーラとブリジットが中に入った。最後にレナが入り扉を閉める。


「はい」


 一番豪華な椅子に飛び込む勢いで座ったルネッタが、正面のソファに座ったファーラに手を差し出した。何かを要求するその動作に、ファーラはわざとらしくため息を吐く。


「……はー、仮にも魔女の立場にある奴が手土産渡されるの待てずに催促するなんて、みっともないですぅ」


「どうせ渡すもんでしょ! あ、それとも大したもの持ってこられなかったから恥ずかしくなっちゃった? いいのよー? 魔女のお給料は功績次第だもんねー。外れ者のお給料なんて大したことないでしょ? あたしいっぱい薬納品してるから、もう稼げちゃって稼げちゃって仕方ないのよねー」


 にやにやと勝ち誇った笑みを浮かべるルネッタに、ファーラは分かりやすく苛ついた笑顔を浮かべる。そしてテーブルの上に、もうひとつ持っていた手土産の袋を乱暴に置いた。


「お気遣いなくですよー。お前よりあちこちに引っ張りだこなんで、ただ薬納品してる薬師よりずーーーっと稼いでるですよぉ。これも、新作の高級菓子なんですけど、あー、お前の舌じゃ分からないかもですねぇ」


 バチバチと火花を散らせるファーラとルネッタ。それをハラハラしながら見守っているブリジットに、ルネッタの隣に座ったレナが声をかけてきた。


「さっきのこと、ちょっと聞いていい?」


「さっきの――と言いますと、魔力の流れ、のことですか?」


 ブリジット自身からしてもレナの反応が気になっていたことを挙げると、レナはこくりと頷く。


「ブリジットは、魔力の流れが分かったのよね?」


「えっと、はい、自分にかけられた魔法の方だけでしたが」


「……ちょっと待って」


 言下、レナはソファから立ち上がり、部屋から足早に出て行った。


「どうしたんですか?」


「いや、私にもちょっと……魔力の流れが分かったのが気になったみたいなんだけど……」


 状況に気付いたファーラが喧嘩をやめて問いかけてくるが、ブリジットには返せる答えがない。仕方ないので、状況だけを伝える。


 顔を向け合い首を傾げ合う彼女たちは気付かない。その前で、顔を下向けたルネッタが眉を歪ませ、膝の上で両拳を握り締めていることに。


「お待たせ、戻ったわ」


 出て行った時より早い速度で戻ってきたレナ。ちらり、とルネッタに視線をやったので、彼女と客人だけにするのを心配していたのかもしれない。


 少し弾んだ息を軽く整え、レナは持ってきた魔道具を机の上に置いた。円柱に水晶が乗っているそれは、魔力使用の練習用魔道具である修練の灯火だ。


「ちょっとこれ、やってみてくれる?」


 示され、ブリジットは少し戸惑いながら返事をして水晶に触れる。


 そして、いつも通りに魔力を注いだ。


 そうすると、水晶の中にいくつもの光が浮かび上がる。ふよふよと漂うそれは、はっきりとしたものからうすぼんやりとしたものまでいくつかの段階に分かれていた。


「……ムラはあるけど、しっかり魔力は通ってるわね。1ヶ月でこれだけ出来るなんて、ブリジットは魔力操作が得意なのね。凄いわ」


 修練の灯火を眺めながらレナがしみじみと呟いた言葉に、ブリジットはぱぁっと表情を明るくする。


「ありがとうございます! ……ささやかな目標なんですが、もっと光らせられるようになったら、お師匠様に見て貰おうと思っていて。褒めていただけたらな、って思ってるんです」


 両手の指先を合わせ、ブリジットは少し照れたように笑った。そんな彼女の努力を間近で見ているファーラも、「きっとすぐですよ」と太鼓判を押す。


 そんな和らいだ空気の中、ルネッタが強く言葉を発した。


「ふんっ、何それしょーもない! あんな男に認められたからって何だっていうのよ」


 腕を組んでぷいとそっぽを向くルネッタ。またこいつは、とファーラとレナが口を開きかける。


 しかし、それより早くに応接室の扉が開かれた。


「お待たせ~」


 レナがティーカートを押して入ってきたため、ファーラとレナはルネッタへの注意を飲み込む。


 そんな中、ブリジットは不満げな顔で顔をそらし続けるルネッタをこっそりと見つめていた。


(――ルネッタ様ってやっぱり――)


「はい、ブリジットちゃん」


 考えていると、正面にティーカップを置かれる。すぐさま思考をたたみ、ブリジットは笑顔で礼を述べた。


「ファーラちゃんもどうぞ」


「ありがとうですよ」


 同じく笑顔でファーラが受け取ると、キャシーは次を注ぐ前に飲むことを勧めてくる。


「え、いや、お待ちしますよ」


「流石に客側でもそれは失礼ですよ」


「あら、別に構わないわよ」


 ブリジットたちが遠慮していると、ようやく顔の向きを戻したルネッタが腕を組んで自信満々にのけぞった。


「何てったって最高級茶葉だからね。飲む機会のない人たちに優先的に飲ませてあげるわ。おかわりも自由にしていいわよ。感謝しなさい」


 ふふん、と笑顔を見せるルネッタを、ファーラは「いちいち口の減らないやつです」と睨みつける。


 しかし、キャシーにはキラキラした目で「美味しいから是非飲んで感想聞かせて」と言われ、レナらからは「遠慮しなくていいわ」と短く告げられては、従わざるを得ない。


 胸に沸く遠慮を何とか抑え、ファーラとブリジットはそれぞれのカップを傾ける。


「どう? 美味しいでしょ!」


 まだ自信満々な笑顔が消えないルネッタ。しかしすぐに、客人たちが何とも言えない顔をしていることに気が付いた。


「ちょっと何よその顔。本当に貧乏人だから味分かんないの?」


「だから別に貧乏じゃねぇって言ってるですよトンネル頭。……言うか迷ったけど、一応ちゃんと言うですよ。お前これ騙されてないですか? なんか変な青臭さがあるですよ」


「はあ!? そんなわけないでしょ! 〝商業街〟のちゃんとしたお店で買ってきたんだから。キャシー、あたしにも頂戴」


 手を出され、キャシーは「う、うん」とすぐさまポットを傾ける。急いでいるせいでいくらか零れてしまった。


「あ、やだ!」


「後で拭けばいいでしょ! 早く!」


 促され、キャシーはソーサーの濡れている部分を避け、ルネッタの前にカップを置く。


 そのまますぐに手を伸ばすかと思ったルネッタは、しかし鼻をすんと鳴らして顔をひきつらせた。


「……このにおい……!」


 何かに明確に気付いたルネッタ。何事か、とレナが説明を求めようとしたところで、異変が起こる。



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