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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
腐食の魔女編
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第14話「認められざる魔女」①


「ほら、挨拶は済んだでしょう? いい加減中に入るわよ」


 呆れたため息を吐きつつレナが促すと、ルネッタは「分かってるわよ」と噛み付きながら身を翻す。


「ルネッタ、すまない。私は後から行く。連絡が来た」


 歩き出す一同の一番後ろからニーロが声をかけると、少女たちの視線は一斉に彼に集まった。


 その右手の先が空間の向こうに消えていることに気付いたファーラが少し硬い表情になる。


「……何事ですか?」


 何かあったのを前提とした質問。何かを察しているわけではなく、数日前の腐食の魔女(シーラ)の襲撃が後に引いているのだろう。


「――セスティアからだ。入る時は声をかけるからお前たちは先に」


「駄目よ。あたし達はここにいるから、そこで喋りなさい」


 ニーロの言葉を、ルネッタがあっさりと却下した。見れば、疑わし気に半目にニーロを睨んでいる。


「見えないところに行っておかしなことされても嫌だもの。セスティアからなんでしょ? あの〝()()()()からの話なんて十中八九魔物関係なんだから、別にあたし達が聞いてたって何の問題もないでしょ? ――それとも、何かやましいことでも?」


 にぃ、と笑うルネッタの目には、「弱みを探ってやろう」という狙いが透けて見えていた。そんな彼女に腹を立てたのはファーラだ。


「失礼なことばっかり言ってんじゃねーですよ落第魔女! お前と違ってお父さんもセス姉様も魔女として色々働いてるんですよ!」


「はぁー!? あたしだって生命の魔女(グレース)様とかルチア様とかの所に薬作って届けてるんだけど! あんたなんか調薬のひとつも出来ないくせに。『知識の弟子(アリクアンド)』とか言われて調子乗りすぎなのよ頭でっかち!」


「そーですねー調薬能力だけは認めてやるですよ。だからとっとと魔女をレナさんに()()()、お前は薬師一本でいきやがれですよ!」


「今の魔女はあたしだって言ってんでしょ!!」


 怒鳴り合いが始まってしまい、ニーロは今日何度目か分からない頭痛を覚えて頭に手を当てる。


 それから、気を取り直すように深い息を吐き、空間から持ち運び用の『伝達の水晶』を取り出した。けたたましい音が未だ鳴り響いている。これだけ待たせて切らない、ということは、本当に重要な話なのだろう。これ以上は待たせられない。


「待たせてすまない、セスティア。どうした?」


 首の高さまで持ち上げた魔道具に声をかけると、水晶からは音声が発せられた。現在の伝達の水晶は、マヤの改良のおかげで使用者以外には相手の声は基本的に聞こえないが、これは古いもの。その声は当たり前に周囲のブリジットたちの耳にも届く。


『こんにちはおじさま。本当に、本当にこんな時に心苦しいんだけど、少し手伝ってくれない? 今追っている奴が空間転移持ってるみたいで、全然捕まえられなくて』


 抑揚は少ないが、申し訳なさそうな女性の声。


「やはりか……こんな時に、というのは確かにそうかもしれないが、魔物を放置して人死にを出すわけにもいくまい。すぐに行こう」


 更に二、三言言葉を交わし、ニーロは通信を切った。


 そして、気が付けばいつの間にか静かになっていた少女たちを振り向き――一瞬言葉を失う。


「――どういう状況だ?」


「あ、えっと、お師匠様が通信を始められたので、ちょっと静かにしてもらおうと思って、つい、町でやっていた癖で……」


 表情を引きつらせながら答えたのは、少し身を傾いだブリジット。ニーロの驚きの対象は、その彼女の両腕の中。ファーラとルネッタが、それぞれの腕に抱き取られていた。レナが「突然二人のこと抱きしめたんですよ」と補足する。


「むぅ、絶妙な子ども扱いですぅ……」


「…………」


 怒りが削がれたのか、ファーラはブリジットに片腕を回しながらその肩口に頭を預け、ルネッタは同じく肩口に顔半分を押し付けていた。眉は歪み、手はブリジットの服を握りしめている。


「あ、ルネッタ様、申し訳ありません。苦しかったですか?」


 あまりの静かさに不安になったブリジットが両人を離した。地面に膝をついて、今度は上に来たルネッタの顔を見上げると、ふん、と顔をそらされる。


「別に! ……ところであんた、今って何か薬飲んでる?」


 そっぽを向いたまま目だけがブリジットに戻ってきた。質問の意図は分からなかったが、意味は分かったのでブリジットは素直に首を振って否定する。


「あっそ。ならいいわ。ほら、もう行くわよ! ニーロ・リッドソンはとっととあたしの空間から出て来なさい。また来る時はちゃんと連絡してから来るのよ。勝手に来たら怒るから」


 しっしっ、と犬猫を払うように手を払われた。だが、ルネッタの行いとしてみれば特筆することではない。ニーロは特に気にせずブリジットとファーラに向き合う。


「すまない、緊急事態なので私は行く。話の限りだとそれほど時間はかからないだろうが、二人では家に帰らないように。もし帰ることになったら、ロザリア様の所に行きなさい。連絡はしておく」


「はい。お師匠様も……お気をつけて」


「分かったですよ。怪我しないように気を付けてくださいね」


 何か言いたげ――いや、聞きたげだが飲み込んだブリジットと、素直に頷くファーラ。


 その二人に順に目をやり、ニーロはこっそりとブリジットとファーラに防御の魔法を多重掛けし、身体能力向上の魔法を緩めにかけた。


 万が一に備えて、しかしそう見せると「信頼していない」とこの空間の者達に示すようなのでこっそりと。


 その魔力の動きに気付いたブリジットだが、何も言わずに行われたことの意味を慮って言葉には出さない。――その背後では、キャシーが何かに気付いたように頬に指先を当てて首を軽く曲げていた。


「では、失礼する」


 言下、ニーロが身を翻すと、何の動作もなく開いていたらしい空間の向こうに姿を消す。


「……流石、空間の魔女ね。全然分からなかったわ」



2026/03/21

本日より更新再開いたします。

お読みいただきありがとうございました。


なお、明日からはまた朝7時20分の更新を予定しています。

(今日は予約投稿するタイミングが取れなかったので。。。)


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