第13話「薬草の魔女からの呼び出し」⑥
「ルネッタ様」
進み出て、ルネッタの拳が当たらない位置で立ち止まったブリジットは、手を胸に当てながら少し身を屈める。
真正面から呼びかけられ、少し涙目になっているルネッタはその目のままブリジットを睨みつけた。何よ、と喧嘩腰な声と態度をぶつけられるが、ブリジットはいつも通り――いや、いつもより優しく微笑む。
「改めましてご挨拶申し上げます。空間の魔女ニーロ・リッドソンの弟子、ブリジット・ベルと申します。どうぞよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げられ、ルネッタは軽く鼻をすすり、肩辺りまで上げていた拳を静かに下ろした。それでも、その両拳は強く握りしめられている。
「……何よ、丁寧ぶって。どうせあたしのこと馬鹿にしてるんでしょ」
自虐気味に言ってのけられた言葉に、ブリジットは軽く首を振った。気負う様子のない態度に、ルネッタの眉に込められた力は無意識に少しだけ弱くなる。。
「いいえ? 私はまだ魔女の弟子となってたった1ヶ月の新参者です。分かっていることもほとんどないのに、他の方を馬鹿にすることなんて出来ません」
それに、とブリジットは指先を立てて自身が来た方向に向けた。
「ここに来るまでにたくさんの特別製ゴーレムを拝見しましたが、あのゴーレムたちは魔石が満ちるまで魔力を吸い取るんですよね? あの数のゴーレムを動かせるほど魔力をお持ちなんて、素直に凄いと思いました」
純粋に褒める言葉と、褒める視線。自身に向けられる柔らかい表情から悪意を感じ取れなかったのか、ルネッタの両拳からは力が抜ける。
それから、改めて腕を組んで仁王立ちした。
「そ、そうよ! あたしは魔力の量すっごいんだから! そこの外れ者はもちろん、そんじょそこらの魔女たちが束になってもあたしには勝てないわよ」
「魔力量〝だけ〟ですけどね」
「マヤさんが面白がって専用魔道具作ってくれなかったら何も出来ないんだから、魔力だけ強くてもしょうがないでしょう」
「もう二人とも! たとえ魔女としては魔力だけでも、ルネッタはちゃんと薬師のお仕事立派にしているからいいのよ」
「そこの性悪二人うっさいわよ! キャシーもフォローするところずれてるのよこの天然!」
冷たく補足してくるファーラとレナ、そしてずれた位置から二人を諫めたキャシーを、ルネッタは怒りのまま怒鳴りつける。
それから、こほん、とわざとらしく咳をして、そっとブリジットに手を差し出した。視線は照れ臭そうによそに向いている。
「……変なところ見せて悪かったわよ。薬草の魔女、ルネッタ・フォルテ。まあ……外れ者の弟子にしては分かってるみたいだし? よろしくしてやってもいいわ」
上から目線が崩せないルネッタに、それでもブリジットは笑顔でその手を握りしめた。
「はい、ルネッタ様」
変わらない笑顔で応じれば、ルネッタはほっとしたように少し表情を緩める。しかし、すぐにハッとして凛々しさを意識するように引き締めた。
そんな様子を後ろから眺めていたニーロは、演じているでもない弟子の自然な対応に素直に安堵する。
ルネッタは予想通り最初からニーロに否定的だった。だが、ブリジットは終始冷静に対応し、今はルネッタからの握手も引き出している。
(最初は演じているのかと思ったが、それにしては随分自然だった……。あれが素であるなら、他の相手との違いは何だったんだろうか。……単純に年齢……か?)
これまでの経験上、「ブリジットはニーロを馬鹿にされたと感じた時に感情が爆発する」、というのがニーロの認識だった。シーラに襲われた時も感情を爆発させた、と後から聞いて心臓が止まるかと思ったほどだ。
しかし今はその兆候すらない。何が原因だろうかと真面目に考察していると、不意にニーロの視線が脇にずれる。
他の誰にも聞こえていない、しかしニーロにだけ聞き取れるけたたましい音が、物をしまうための空間の中で鳴り響いていた。
お読みいただきありがとうございます!
もし物語を追ってもいいと思っていただけましたら、★評価やリアクションで応援していただけるととても励みになります




