第13話「薬草の魔女からの呼び出し」⑤
「よく来たわね外れ者とその弟子! さ、このルネッタ様の空間に来られた栄誉に感謝しながら挨拶しなさい」
美しい庭園を誇る大きな建物に着くと、その入り口に立つ少し紫みの
あるピンク色のボブカットの少女が腰に手を当て出迎えた。
頭には深緑を基調としたミニハットと花を模した髪飾りをつけており、同色のケープや短めのスカートを身に着けていた。
爛々と輝く双眸は夏の日差しに輝く木々に似ている。あどけない顔立ちに浮かべられた自信に満ちた笑顔は、ひまわりよりも堂々としていた。
「えっと」
困惑したブリジットの視線は、ファーラに向けるのと同じくらいに下がっている。ルネッタはファーラより2歳年上の13歳だと聞いていたが、身長的にはファーラとほとんど変わらないように見えた。――そしてその挙動は、彼女をファーラよりも年下に見せさせる。
「……はぁ、挨拶なら家の中に入ってからにしなさい」
こめかみを撫でながら、レナが疲れた調子で諫めた。そんな指摘に、ルネッタは腕を組んで「ふふん」と勝ち誇った笑顔をする。
「駄目よ。家主にちゃんと挨拶してから入るのが礼儀ってもんでしょ。ましてや魔女の輪から外れに外れてるやつの弟子なんだもの。暑いとかそんな甘え……ん?」
言葉の途中、ルネッタの視線が一同の上に向いた。そしてそこに日陰があるのを確認すると、途端にむくれる。
「何で日陰出して来てんのよ! ……せっかく一番暑いところに出るように指定したのに台無しじゃない……」
面白くなさそうにぶつぶつ言うルネッタ。ファーラが眉根を寄せて何事か言いかけるが、それより早くキャシーが彼女に近付きその頬を指先でつついた。
「もー。意地悪しちゃダメでしょルネッタ。自分が魔法使えないからって八つ当たりしないの」
「あっ、ちょ! キャシー駄目!」
さらり、とキャシーが口にした内容に、ルネッタが慌ててその口をふさごうと飛びつこうとする。しかし、キャシーはそれを軽く避けた。
「やだ、ルネッタったら乱暴なんだから。そんなに慌てなくていいじゃない、どうせみんな知ってるんだから」
「外れ者の弟子が知ってるとは限らないでしょ! 何で今言うのよ、キャシーの馬鹿!」
「え~~? そんなに怒らないでよぉ。尊敬されたいからって何にも知らない子にさせようとするなんて性格悪~~い」
姉弟子を捕まえようとするルネッタと、そんな彼女から笑って逃げ回るキャシー。
ふたりの追いかけっこを眺めていたブリジットは、ハッとして正面のファーラの耳に口を寄せる。
「(あの、魔女って魔法を全部使えるはずじゃ……?)」
本来本人の目の前で聞くことではないことだ。だが、衝撃が強すぎて、配慮というものがブリジットの頭からは抜け落ちていた。
そしてそれを、ファーラは咎めない。
「本来はそうですね。ただ、この馬鹿は正規の手順で魔女になったわけじゃない、魔力の知覚と操作が一切出来ないという落ちこぼれ魔女なのです。魔力を使用する魔道具も、同じ理由で使えません」
「そう。だから、ここのゴーレムは特別製なの。自分で魔力を注ぐんじゃなくて、魔力を吸い取ってもらう、ね。魔力だけは無駄にあるルネッタ専用よ」
最後にギリギリ残ったブリジットの気遣いである小声をなかったことにするように、ファーラ、そして彼女の説明に補足するレナの声は通常通りだ。
そしてその声は、ブリジットどころかキャシーを追い回していたルネッタの耳にも当然届く。その小さな体がわなわなと震えだした。
「ほらぁあ! やっぱり知らなかったじゃない! キャシーの馬鹿! ごまかしてやるって気遣いも出来ない頭でっかちとレナも馬鹿!!」
癇癪を起こしたように手を振り回して暴れるルネッタ。ファーラとレナから注がれる目は冷たく、キャシーは口元を両手で隠しておろおろした様子を見せる。
様子見をしていたニーロは、これ以上は放置出来まいと頭を抱えた。気付かれたらまた怒られそうだが、鎮静の魔法を使おうと指先を動かす。
だが、それより早くに動いた者がいた。ブリジットだ。




