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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
腐食の魔女編
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第13話「薬草の魔女からの呼び出し」④


 説明より早く、遠くから女性の声がかけられる。揃ってそちらを向けば、二人の女性がこちらに近付いてきていた。


 日傘を差しながら逆の手を振ってこちらに笑顔を向けているのは、淡いピンク色のふわふわしたロングヘアの女性。その後ろを静かについてきているのは、銀髪のショートカットの女性――レナだ。


 ファーラが手を振り返し、ブリジットは丁寧に頭を下げ、ニーロは軽く手を上げる。


 そうしてそれぞれの反応を示している内に、レナたちは近くまで来た。その頭上で皿が少し広がる。気付いたピンク髪の女性は日傘をたたみ、レナはぺこりと軽く頭を下げた。


「いらっしゃいませ! 今日はルネッタが急に呼び出しちゃってすみません……」


 困ったように笑いながら、ピンク髪の女性は頬に手を当てる。大丈夫、とも言えず、ニーロは「いや……」とだけ返して軽く頷いた。


 そんな彼からすぐに目をそらし、ピンク髪の女性はブリジットに向き直りにこりと微笑む。


「はじめまして、ブリジットちゃん。私はキャシー・テイラー。ルネッタの姉弟子で、一応一級の弟子です。ファーラちゃんとお揃い。ね」


 少し身を屈めて、ピンク髪の女性ことキャシーはファーラに手のひらを差し出した。


 ファーラは笑い返し、「ですねー」とその手に自分の手のひらを軽く叩き合わせる。何となくその笑顔がいつもと少し違う気がした。


(ルネッタ様の空間の人だからかな? レナさんが協力してくれた時もそのせいでちょっと戸惑っちゃった、って言ってたし……)


 いつも泰然としておりコミュニケーション能力の高いファーラ。彼女にも苦手なことがあるのだと思うと、ブリジットは少しばかりほっとしてしまう。


 それから、思考の向きを彼女たちの会話の内容に変えた。


 魔女の弟子には階級がある。七級から始まり、六級、五級と上がり、最終的に魔女の後継者候補の特級が最高位だ。


「えっと、七級から六級に上がるのに3人の魔女様の許可が必要で……そこから2人ずつ増えていくから――凄い、11人の魔女様に認められていらっしゃるんですね」


 昇級のルールを確認して指を折ったブリジットが顔を上げた。純粋な驚きの視線を向けられ、キャシーは気分よさげに笑う。


「そんなことないよー。あ、でも、特級も近い、って言ってもらえてるんだ。ブリジットちゃんも頑張ってね」


 ブリジットはまだ弟子になってから一か月。もちろんながら七級だ。ニーロの弟子がブリジットしかいなかろうが、ブリジットが特級にならなければ魔女を継ぐことは出来ない。


 目標を改めて示され、ブリジットは力強く「はい!」と答える。そんな彼女にニコッと笑ってから、キャシーは手のひらを隣のレナに向けた。


「えっと、それでこっちが」


「レナ・ハーリーよ。……思った以上に早い再会だったわね、ブリジット。怪我、治ったようでよかったわ」


 ほとんど動かない表情で涼やかな視線が注がれ、ブリジットは咄嗟に頬に手を当てる。何の痛みも何の跡も残っていないのは、彼女のおかげでもあった。自然と頬が柔らかくなり、口元には笑みが浮かぶ。


「はい、先日は本当にありがとうございました、レナさん。おかげで綺麗に治りました。蔦の魔女(ロザリア)様も応急処置が良かった、と仰ってました」


 キャシーは口元を揃えた指先で隠しながら、共通の話題で分かり合っている様子の姉妹弟子と客人たちを交互に見やった。


「何かあったの? 昨日のお菓子もロザリア様が贈ってくださったって言ってたけど……その関係?」


 きょとんとしている様子のキャシーに、レナは「大したことじゃないわ」と軽く躱す。しかし、十分大したこと、と思っているファーラがそれを補足した。


「先日出先でブリジットさんが怪我をしてしまいまして、応急処置にレナさんが名乗り出てくださったんです。おかげで大事なお弟子さんが無事だったので、感謝しかありません。ということでこちら、つまらないものですが」


 さっと手土産を渡すファーラ。一瞬遠慮しかけたレナだが、彼女は察しが良い。今日いきなり呼び出されたにもかかわらず出てきたそれを用意するのに、ファーラが苦労したことに考えが至ったらしい。


「ありがとう、いただくわ」


 素直に受け取ってもらえ、ファーラもほっとした様子で笑った。


「出先で人助けなんて、流石レナね。私じゃきっと慌てちゃって、周りにあれしてこれして、ってお願いするばっかりになっちゃいそう」


 誇らしそうに微笑んでから、キャシーは悩まし気に頬に手を当てため息を吐く。それから、はた、と何かに気付いた。


「……あら? その割には、帰ってくるの早かったけど……?」


「応急処置だけして帰ったからね。ふたりはそのままヘルミニア様の所に行ったわ」


 さらっと返したレナに、「やだっ」とキャシーは眉を八の字にして両手を口元に当てる。


「もー! レナったら駄目じゃない。怪我している子を中途半端に見捨てるなんて。私だったらちゃんと最後までいたわ。ごめんなさいね、ファーラちゃん、ブリジットちゃん」


 困ったように謝罪してくるキャシー。レナは特に何も言わずに長めに目を瞑った。


「え? あ、いえ、そんなことは……」


「レナってばいつもこうなのよ。本当は優しい子なのに、最後までそういうところ見せないから誤解されちゃうの。表情が少ないから分かりづらいかもしれないけど、本当に優しい子なのよ。ごめんね」


 両手を合わせて必死な様子を見せるキャシーの勢いに負け、ブリジットは「はい、だいじょうぶです……」と答える。そう答えるのが精一杯だった。


「もういいわね? そろそろ行きましょう」


「あ、やだ、そうね! じゃあ案内しますね。こちらへどうぞ~」


 レナに促され、キャシーが歩き出す。その後にファーラ、ブリジット、ニーロが順に続き、最後尾にレナがついた。


 前三人は賑やかに、後ろ二人は静かに、日陰の下を一列に歩き進める。


(――ああ、本当に気に食わない――)


 そんなことを思って、誰にも見えないからと表情を歪めたのは、誰であっただろうか。

 


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