第13話「薬草の魔女からの呼び出し」③
空間を渡った瞬間、独特のにおいが鼻につく。
(不思議なにおい……薬草……?)
臭い、という訳ではないが、花のような華やかなもの、あるいはフルーツのような甘いものでもない匂いが鼻腔をくすぐった。思い出されるのは、町で薬師が営んでいた店舗。
「ここが、ルネッタ様の空間……」
見渡す一面に広がるのは、花畑。緑しか見えない場所もあるので、正確には薬草畑なのかもしれない。遠くには、植物が絡んでいる格子状の立て掛けがいくつか並んでいるのが目に映る。
「うー、お父さぁん、暑いですぅ」
「ああ、少し待ちなさい」
日を遮るものがない炎天下の元に出てしまい、ファーラが土産として用意した菓子を丸めた体の下に隠した。訴えられたニーロはすぐに日陰として巨大な皿のような物を出現させる。
冷気を発生させる魔法も込められているのか、日陰に入ると熱気も一気に抑えられた。ファーラのみならずブリジットもほっとする。
「あ、可愛い花」
不意にブリジットは、ピンクと黄色がバランスよく配色された可愛らしい花が足元にあることに気が付いた。丸い実がいくつかついている。
これが種だろうか、と無意識に手を伸ばし、指先がそれに触れた。
その途端、実が割れる。黄色い花粉が小麦粉のような細かさで溢れ、ブリジットの周りに広がった。
「わぁ!?」
思わず悲鳴を上げてブリジットは立ち上がる。
何事か、と驚いた様子で振り向いたニーロとファーラは、服や肌に黄色い汚れがついてしまっているブリジットに失笑した。
「あまり無闇に触らないようにしなさい。調整すれば薬になるから、毒草も植えられているそうだ」
「うっ、すみません、無意識に……気を付けます」
魔法で綺麗にされながら、ブリジットは恥ずかしさで赤くなった頬を抑える。
「あ、ここでもゴーレムが動いているんですね。豊穣の魔女様の所と形が違う」
花畑の間や中にある小道でゴーレムが何体か行き交っているのを見つけ、ブリジットが少し弾んだ声を上げた。心情としては話を変えたい半分、純粋に楽しいが半分、といったところだ。
ジェシカの所にいたゴーレムは、丸みを帯びた体をした短い手足の土色の小さな形だったが、ここにいるゴーレムは青色の装飾をした背の高い人型をしている。
「ゴーレムは希望の形で作れるようになっている。動物の形をしたものなどもいるから、その内見ることになるだろう。魔力があれば核さえあれば作れるから、気になるなら今度マヤに核をもらってみるといい」
作れる、とあり、ブリジットはついそわっとしてしまった。初めて見た時からその可愛さに心奪われている身としては、それはかなり魅力的な勧めだ。
「あ、ブリジットさん。他の所は問題ないんですが、ここのゴーレムは触らないようにしてくださいね。問題児に合わせた特別製なので」
一応、という形でファーラが忠告する。
「特別製?」
何が違うのだろう、と、ファーラに向けていた視線をブリジットは再びゴーレムたちに戻した。手足が長い分、ジェシカの所にいるゴーレムたちよりも動きがスムーズだが、それ以外の変わったところは見つけられない。
じっと見つめ考えていると、ファーラが笑いながら補足してくる。
「普通のゴーレムは使用者が魔力を流して動かすか、魔力を込めた魔石を入れて動かします。でも、あれは触れた相手の魔力を、相手の意思に関係なく吸い取ります。しかも魔石が満杯になるまで吸収するので、下手すると魔力を全部持ってかれちゃうですよ」
「えっ!? 何それ怖い……!」
とんだトラップだ。ごくりと喉を鳴らすブリジット。それから改めて、根本的な疑問を抱く。
「何でルネッタ様はそんなゴーレム使ってるの? ……さっき言ってた問題児、ってやつに関係が……?」
聞いていいのかどきどきしながら尋ねると、ファーラは「へっ」と鼻で笑った。
「そーですよー。なんてったってあいつは」
「あ、いたいた。ニーロ様―、ファーラちゃーん、ブリジットちゃーん、いらっしゃいませー!」




