第13話「薬草の魔女からの呼び出し」②
「ファーラちゃん、そんなに嫌なら来なくて大丈夫だよ? マヤ様たちからいただいたブローチもあるし、魔道具をいくつか貸してもらえれば」
気遣わしい視線に、ファーラも少し冷静になったらしい。瞼を閉じると、緩く丸めた両こぶしでこめかみを揉み始めた。
「……いいえ、大丈夫です。ルネッタには会いたくないですが、レナさんには先日のお礼をしなくてはいけませんし」
「レナさん?」
首を傾げてオウム返しにすると、ぱちりと茶色の双眸が再度ブリジットを捉える。
「ブリジットさんがシーラ様に襲われた後に、薬を使ってくれたお姉さんは覚えていますか? あの方がレナさんです。ルネッタの姉弟子で、本来は魔女を継ぐはずだった方なんですよ」
示された人物に、思い出すのは銀髪のショートカットをした涼やかな視線の女性。あの時、確かに彼女は「きっと遠くない内に会うことになる」と言っていた。
こういうことだったのか、とブリジットはひとり内心で納得する。
一方で、「本来は」という発言が気になり始めた。聞こうと思ったが、それより早くファーラは繕い物を手早く片付け始める。
「こうしてはいられないので、ちょっと手土産買ってきます。ブリジットさん、行ったことがない空間に行くので本当は一緒にお連れしたいのですが、今は危ないのでお父さんとお留守番していてください」
「え、でも、ファーラちゃんも危ないのは同じじゃないの?」
すぐに行動しようとしたファーラの手を、ブリジットがすぐさま掴んだ。見た目よりも運動能力が高いブリジットは反射神経も良く、綺麗に手が繋がれる形になる。
思わず気持ちが緩んでしまい、ファーラはつながれた手をにぎにぎとしながら安心させるように笑った。
「大丈夫ですよ。シーラ様が昔から望んでいるのは、お父さんが継承した『魔女』をお父さんで終わらせること。魔力がない僕は生きていたところで何も出来ませんから。――それに――」
言葉が止まる。何かを思い出したのか一瞬目が潤むが、ファーラはそれを隠すようにまた笑った。
「いえ、何でもないです。とにかく、僕は大丈夫なので」
「ああ、ブリジットが同行するよりは一人の方が危なくないだろう。……一応、防御の魔法は張っておこう。魔道具もちゃんとすぐに出せるようにしておくんだぞ」
言下防御の魔法が二重、三重にかけられる。大丈夫、と思っていても心配なのはやはり心配らしい。笑いを零し、ファーラは「はいですよ」とニーロに抱き着く。
そんなリッドソン親子を眺めブリジットが微笑ましくしていると、ファーラの頭を撫でながらニーロが声をかけてきた。
「ルネッタの空間に行く前に、大切な話がある」
真面目な顔をされ、ブリジットは居住まいを正す。ファーラが離れたので、ニーロはブリジットの前に膝をつき真剣にブリジットを見上げた。
「ブリジット、正直に言うと、ルネッタは魔力至上主義者で、自分よりも魔力が低い相手のことを見下す性質だ。私のことも、男、ということも含めて見下している」
ぴくり、とブリジットの眉が揺れる。
その反応こそが、こうしてニーロが真面目に話している理由であると、彼女は恐らく理解していない。ニーロは真面目な顔のまま続けた。
「なので、そういう発言が間違いなくあると思うが、今回は絶対に我慢しなさい。喧嘩してへそを曲げられたら、空間再構築に協力しない、と言われてしまうかもしれないからな。そうなれば、私たちだけではなく、魔女の空間にいる者全てに影響が出てしまう」
「魔女としては落第級ですが、魔力量だけは現在の魔女たちの中でもトップクラスなんですよ」
師が果たそうとしていることの、重要な要因である。それを伝えられ、ブリジットは瞑目した。そして数度の深い呼吸の後、ぱちりと目を開き、真っ直ぐに、真剣にニーロを見つめ返す。
「はい、分かりました」
覚悟を決めた眼差しに、ニーロは安堵を浮かべた。
「では、準備をするとしよう」
とにかくニーロに文句を付けたい、困った少女の元に行くために。




