第13話「薬草の魔女からの呼び出し」①
ブリジットが腐食の魔女の襲撃を受けてから2日目、ニーロは朝から頭を悩まされていた。
「ルネッタ。ルネッタ落ち着きなさい。あと5日で満月の夜だ。うちの弟子に挨拶するにしろ、空間の組み直しが終わった後でも」
『もっと早く来れば良かったんでしょ! もう1ヶ月くらい経つのに、未だにルネッタ様の所に来ないとかどういうつもりよ! あと挨拶『する』んじゃなくて挨拶に『来る』のよ。あたしの方がずーーーーーっと偉いんだから!』
通信の小部屋にかけられた鏡の向こうで、紫に近いピンク色の髪をした少女が、明るい緑色の目を吊り上げてわめく。キンキンと響く声に悩まされるが、分かりやすくそう示すわけにもいかない。ニーロは少しこめかみを揉んで気を紛らわせた。
「私も彼女も慌ただしかったのは分かるだろう? だから」
『だからっ、許してあげるからいい加減挨拶来なさいって言ってるのよ! あっ、あの執行人の男は駄目よ。頭でっかちの魔法人形なんて、何しでかすか分からないもの』
「では、次に生命の魔女様の所に君が薬の納品に行くタイミングでどうだろう?」
さりげなく空間の組み直し後に日程が行くように調整しようとするが、少女――薬草の魔女ルネッタは「駄目よ」と一蹴する。
『あたしその日は遊びに行くんじゃなくて仕事しに行ってるんだもの。そんなことも分からないなんて、これだから〝外れ者〟は駄目なのよ』
ふん、と鼻を鳴らして腕を組むルネッタ。ファーラより3歳年上だというのに、物分かりが段違いに悪い彼女に、ニーロは重ねて頭痛を感じた。
これ以上は断っても宥めても引かないだろう。そう判断して、ニーロは自身が折れることを決めた。
「分かった、では君の空間に行こう。ただし、シーラから襲われた後だ。私とファーラも同行する。それが嫌なら別のタイミングにしなさい」
最低限譲れないラインを提示すると、ルネッタは嫌そうな顔をする。だが、ニーロが真っ直ぐに見つめていると、これ以上は文句を言っても引かない、と理解したようだ。
『ふん。じゃあ今日お昼過ぎにでも来なさい。手土産の一つ持ってきなさいよね』
そういうと、ルネッタは一方的に通信を切る。しんとなった小部屋の中で、ニーロは耐えていたため息を長く吐き出した。
唐突に決まった予定に、リビングで繕い物をしていたファーラはこの上なく嫌な顔をし、魔力操作用の魔道具『修練の灯火』を使っていたブリジットは目をぱちくりさせる。ユリウスは朝食後の片付けが終わると早々にチャールズ神父の所に行ってしまったので、すでにここにはいない。
「お父さん~~~? 何で断らないんですかぁあ?」
珍しく不機嫌丸出しの顔で睨まれ、ニーロは躱すように視線をそらして宥めるように片手を彼女の前に出した。
「何度も断ったのだが聞かなかったんだ。恐らく『私の弟子が挨拶に来た』という事実が欲しいだけだろうから、挨拶をしたらすぐに帰ることになるだろう。何かあった時にお前がいた方がブリジットも行動を迷わないかと思っていたんだが……そんなに嫌なら残っていても」
「行きますよ! あのおバカの所にブリジットさんだけ行かせるなんて出来ません! 万が一シーラ様が来てお父さんが対応することになった時、ブリジットさんの守りゼロになっちゃうじゃないですか!」
がぁっ、と噛み付く勢いを見せるファーラ。気に食わなくとも冷静に判断出来る辺りが、ルネッタとの違いだろう。娘となったのがファーラでよかった、とニーロはおかしな所で改めて感じてしまう。
「ええと、確かルネッタ様は薬草の魔女様でしたよね。あの……ファーラちゃんと物凄く仲が悪い、という」
控えめにブリジットが確認すると、ファーラは「あんな奴と仲良く出来ないですよ」と歯噛みし、ニーロは額に手を当てながら「そうだ」と肯定した。
「ファーラとルネッタは、魔女に関する色々な所が正反対なんだ。それがお互いに気に食わないようでな。こうなる」
なるほど、と冷や汗をかきながら頷くブリジット。それから、眉根を寄せ不機嫌な顔をしているファーラに視線を向ける。




