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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
腐食の魔女編
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第12話「腐食の魔女の襲撃」⑥


 ユリウスの予想外の問いかけに、ブリジットは咄嗟には反応出来なかった。えっと、と言葉を迷っていると、気を遣ったのかヘルミニアが代わりに事態を手早く説明する。


「……魔女の襲撃……? 何で仲間割れなんざしてんだ。魔女の直弟子だろその女」


 少し眉根に皺を寄せ、怪訝な様子を見せるユリウス。そんな彼の肩に、ローレンスが軽く手を乗せた。


「魔女たちも一枚岩じゃないってことだ。特に男に対する扱いに関しては、魔女たちの間で一番スタンスが分かれてる。自分たちを追いやった相手とは別物だ、と考える人たちもいれば、男ってだけで全員毛嫌いしている人たちもいる。今回襲撃を仕掛けてきたシーラ様は、特に酷くてな。ニーロ様に対する嫌悪も強いから、『聖者憎けりゃ法衣まで憎い』って感じなんだろうな。執行人にもあっただろ? 魔女と疑われた者はその場で殺せ派と、神の前で裁くべき派」


 受けた説明はユリウスと同じローレンスだが、彼の方が歴が長いだけ魔女たちの機微には詳しい。


 最後に身に覚えのある話を振られ、説明の最中さっさとローレンスの手から逃れていたユリウスは、「まあ、そうだな」と苦々しく同意する。


 周りの者は「魔女と一緒にするな」と思っているのだろう、と解釈した表情。それも正解なのだが、更に「神の徒である執行人たちが一枚岩になれていなかった情けなさ」や「単純にローレンスに素直に同意するのが何となく悔しい」などの感情が交錯していることは、気付く者はいない。


「……それで? その魔女はお咎めなしかよ?」


 表情を直してユリウスが問うた視線の先は、ブリジットやファーラではなくヘルミニアとマヤ。ロザリアにも一瞬視線が行ったが、彼女の様子を見てかすぐに視界からは外されていた。


 問いかけに、ヘルミニアは「いいや」と否定しマヤは悲しそうに首を振る。


「さっきも話してたんだがね、もうお咎めなしとはいかない。今夜改めて対策会議が開かれるよ。流石にあからさまに弟子を殺しにかかったとあっちゃ、ニーロ様否定派も庇いきれない様子だったね」


「今のシーラは完全に正気じゃない。どんなに憎くても、魔女が魔法を使って人を襲うのは、絶対にやっちゃいけないこと。……シーラは、ちゃんと反省させないといけない」


 言いながら、どんどん表情が暗くなっていくマヤ。どうしたのか、とブリジットが気遣わしげな視線を送っていると、ローレンスが大股で彼女に近付き、背後からその肩を抱いた。


 気遣う視線を見上げ、マヤは肩に当てられた彼の手に自分のそれを重ね頭をその腹に押し付ける。


 少し顔色が良くなったマヤにブリジットがほっとしていると、背後でユリウスがまた口を開いた。


「あのジジイは?」


「だからジジイ言うんじゃねぇですよ自分の生命線に。――お父さんは今お出かけ中ですぐには連絡取れない状況です」


 ブリジットがファーラ側に視線をやると、その視線は真っ直ぐにブリジットの向こう側に向いている。恐らくユリウスの視線もファーラに注がれていることが予想出来た。


 ――出来たが、顔をそちらに向けることは出来ないでいる。また視線が合ったら、どう対応すればいいのか分からなかった。


(――いつも通り無視してくれたらいいのに。そしたら私だって――)


 ぐっとブリジットが指先に力を入れて握りしめていると、気付いたロザリアが声をかけようと口を開く。しかし、それより先に再び扉がノックされた。


「失礼します。先程のお客さんのお茶をお持ちしました」


「ああ、ありがとう。入っとくれ」


 声をかけると、先程の女性がお盆に2人分には多いポットと菓子や軽食の山を乗せて入ってくる。


 ヘルミニアに促され、ローレンスはヘルミニアとマヤの間の空いている椅子に座った。同じく奥の椅子を勧められたユリウスは、眉を歪めてヘルミニアを見やる。


「座って呑気に茶ぁしてる場合かよ? つーかここで座ってるくらいなら俺は外に」


「何言ってんだい。ブリジットが襲われたんだよ? 次はあんたの可能性だって十分ある。あんたシーラに連れてかれてどうにか出来んのかい? シーラの腐食の瞳に対抗する術は? 悪いけどあたしの方がシーラより魔力がずっと弱い。感知してすぐ助けてやるってのは出来ないよ?」


 責めるでもない、しかし優しく諭すでもない物言い。サバサバとした、それこそ職人がするような対応は、逆にユリウスには受け入れやすかったようだ。


「……今の俺に何も出来ねぇのは事実か……」


 持ち上げた自分の手を見つめ諦めるように呟くと、ユリウスは女性のお盆からポットとカップを取る。そして、勝手に茶を入れるとポットだけ机に置いた。


「ユリウス! お行儀悪い真似すんなですよ!」


「うるせぇな、どうせ出される茶だろうが」


 怒るファーラを軽くかわし、ユリウスは軽食が乗った器がいくつか配置されているプレートを取って先程勧められた席に着く。重ねる失礼にファーラが女性に謝罪しようとするが、直後彼女が口にした内容に話はがらりと変わった。


「……あら? 坊や、もしかして重いの先にどかしてくれたの?」


 ふいに気付いたように、女性がすっかり軽くなったお盆を上下に動かす。問われた内容にユリウスは「何言ってんだ」と憎まれ口を叩いた。


 だが、一同が改めて見やれば、確かにユリウスがお盆からどかしたのは、お替り分まで含めたポットと、小さいサンドイッチや野菜スティック、果物の入った器が配置されたプレート。どちらも重量があるのは一目で分かる。


 一瞬の沈黙。集まった視線から逃れるように、ユリウスは不機嫌そうな顔で「違ぇっつってんだろ」と一同をにらみ返した。


 だが、にやぁ~と笑ったファーラとヘルミニア、微笑ましい様子を見せるマヤ、ローレンス、ロザリア、弟子の女性には、最早ただの言い訳にしか聞こえない。


「あらぁ、嫌だわこの子ったら! ニーロ様の所を襲撃した執行人だなんていうからちょっと怖かったんだけど、とってもいい子じゃないの。も~~、大丈夫よ、お姉さんほら、こんなに逞しいから!」


 お盆を机に置くと、両腕を肩の高さまで上げて力を込める女性。全身の筋肉が膨れ上がり、特に隆起した二の腕の筋肉は、ブリジットを軽く持ち上げられるわけだと納得出来る仕上がりをしている。思わず素直に感心し、ヘルミニアとユリウス以外からは笑顔で拍手が飛んだ。


「くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ。誰が悪魔の手先なんて助け、る……っ」


 怒鳴りかけたユリウスは咄嗟のように言葉を止め、ぐっと歯を食いしばる。かと思うと、ネックレスについている太陽のシンボルを握りしめた。



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