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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
腐食の魔女編
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第12話「腐食の魔女の襲撃」④


 悲劇の一つ目は、彼女の師であり養母である先代魔女マルグレット・メルネスの痴呆が始まってしまったこと。御年89歳の高齢で、平均的な魔力しかないため順当に老けた結果、今はすっかりシーラのことが分からなくなってしまったのだ。師を心の支えとしていたシーラは、これに酷く動揺していた。


 そして、二つ目にして最大の悲劇。彼女がただ一人取った弟子であり、幼少期から育ててきた少女が、空間の外で野盗に嬲り殺しにされたこと。


 元気のない師のためにと、綺麗な花が咲く場所に向かっていた最中だった。魔女だ何だは関係なく、ただただ良いカモだと目を付けられた。そのせいで死体はその場に置き去りにされ、探しに来たシーラは尊厳を踏みにじられた愛弟子の姿を、その目に焼き付けることになってしまったのだ。


 そして、そこからシーラの暴走は始まる。まずは弟子を殺した野盗達を一人残らず腐り殺した。生きたまま少しずつ腐らされ殺されたのだと、アジトのあちこちに残された指の形にこびりついた肉片と、体を引きずったらしい血の跡が教えてくれた。


 非常に残酷な行動だ。だがこれに関しては、野党たちの所業、そして自分達が排斥された過去の経歴から同情的な声が多く上がり、謹慎で話は済んだ。――済ませてしまった。


 それが悪手であったと魔女達が気付いたのはその後のことだ。謹慎していたはずのシーラは姿を消し、同時に、魔女の空間のあちこちで攻撃を受ける男が増加しだした。幸いにしてどの時も空間の主である魔女達が気付いて止めたので、大事にはなっていない。


 シーラは止めるべき、という意見も魔女達の間で出始めている。ここに至って未だに「出始めている」レベルなのは、被害者が全て「男」であったからだ。


 だが、シーラはついに魔女の弟子であるブリジットにも手を出した。これは最早、議論を後回しにしていい問題ではない。魔女たちは魔女同士が直接的に争うこと、弟子たちに危害を加えることを固く禁じている。たとえそれが、男の魔女やその弟子だとしても、だ。


 重い沈黙が落ちる。その中、マヤが突然腰の袋を漁り出した。


「もっと早くに渡しに行ければ良かった。間に合わなくごめんね」


 そう言ってマヤは、金装飾の楕円形をしたブローチを取り出す。台座の方の枠には近くで見れば分かる程度の薄い装飾がされ、中央にはブリジットの目の色によく似た宝石がはめ込まれていた。


「これ、弟子就任祝いの魔道具。台座はルミア姉に作って貰ったやつだよ。それでね、この中央の宝石、ここに魔法が込められるの。身体強化、とか、空を飛ぶ、とか、治療、とか、防御、とか。いっぱい。入れられる量とか出力は制限あるし、使う時には魔力が必要になるけど、必ずブリジットの助けになるよ。シーラに会う前に上げられたらよかったね。作るの間に合わなくてごめんね」


「えっ!? い、いえ! とんでもありません。マヤ様のせいではありません。あのでも、そんな素晴らしいもの、私がいただくのは……」


「必要。分かったでしょう? シーラほどの人はそういないだろうけど、男嫌いとかニーロ様を認められないっていう人は魔女にも弟子にもたくさんいる」


 マヤにしては珍しく強く言われ、ブリジットは言葉を失う。その隙に、マヤはブリジットの胸元にブローチを付けた。


「一応私が魔法を入れてるけど、私魔力少ないし魔法はあんまり得意じゃない。出来れば得意な人に入れ直して貰って。はい説明書」


 四つ折りにされた紙を受け取り、ブリジットは自身の胸元に若干斜めに付けられたブローチにそっと指先を触れる。


「ありがとうございます、マヤ様。大事にします。……あの、魔女でなくても、魔法が使えるのですか?」


 単純な疑問を口にすれば、マヤは得意分野の話が出来ると目を輝かせ「出来る」と即答した。「そもそも魔道具は」と語りが始まった、その瞬間、再び扉を開けてヘルミニアが戻ってくる。


「待たせたね。今夜改めてシーラについての対策会議をすることになったよ。ただ、ニーロ様には連絡がつかなかったから、ちょっと帰るのは待ってな。このまま帰るんじゃ危ない からね。ああマヤ、あんたあれだ、元執行人の坊や呼び出しな。ローレンスに連絡入れればつながるだろ?」


「ん、分かった。ちょっと行ってくる」


 頼まれたマヤは球体に飾り紐が付いた魔道具を取り出しながら部屋の外へと出ていった。先と逆の立場になったヘルミニアは、マヤを見送ってからブリジットとファーラに視線を向ける。


「それね、顔の。一応グレース様にも声はかけたんだが、空間の作り直しが目前だろう? グレース様の魔力は余計に使うべきじゃない、ってことになった」


「そんな!」


 非難の声を上げて、食って掛かる勢いでファーラが立ち上がった。それを片手で制しながら、ヘルミニアは「だけど」と続ける。


「別の回復が得意な方が、あんたが怪我したって知ったらすぐに来るって言ってたよ。反対の声なんて何も聞かずに通信切ってたから――ああ、来たね」


「ブリジット!!」


 マヤが出る際に閉められた扉が勢いよく開けられた。ヘルミニアの大きな体ですぐには見えなかったが、彼女がすぐさま一歩横に逸れたので、飛び込んできた人物の姿はしっかりとブリジットの視界に映される。ニーロの師の妹分であり、ブリジットの後見人の一人、蔦の魔女ロザリアだ。


「ロザ、リア様」


「まあまあまあ、可哀想なブリジット。なんて酷いことを……ああ大丈夫ですよブリジット。私も、グレース様ほどではないけれど回復の魔法は得意ですからね。しっかり治してあげますからね。ええ、ええ、可愛いお顔だものね、ちゃぁんと治せるわ。任せてね、可愛いブリジット」


 無事な側と、魔道具で保護されている側の両頬に手を当て、ロザリアは涙が零れる直前の目でブリジットを見つめる。部屋着だろうドレスと緩く括っただけの髪は、彼女が本当に急いでブリジットの元に来てくれたことを教えてくれた。


 頬が揺れ、視界が歪む。胸を占める安心感に堪えきれず、ブリジットはロザリアに抱き着き声を払って泣き出した。


 怖かった、とようやく口に出来たブリジットを抱きしめ返し、ロザリアは鼻をすすりながら「もう大丈夫」「私が守ってあげるから」と繰り返す。



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