表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

序話 魔女との出会い①


 こんな日が来るなんて信じたくもなかった。どうしてこんなことになったのだろうと、何度自問しても、自分すら答えを出してくれない。


「……手を、出しなさい、ニーロ」


 血が絡んだ声で、〝彼女〟はそれでも揺らがない視線を向けてくる。拒否したい心を叱咤した。怯えながら手を出せば、死にかけとは思えない力強さで握り締められた。


「『血よ巡れ。千代(ちよ)巡れ。千世(ちよ)巡れ。我が魔力に宿りし契約よ、ここに命ず。新たなる主の元に在れ』」


 詠唱に合わせて強い、しかし目を焼かない不思議な光が〝彼女〟を包む。その光は徐々に手に集中し、やがて小さな手に移っていった。移った光は、現れた時同様徐々に消えていく。今度は、震える小さな体に溶けるように。


 光が完全に消えると、〝彼女〟は青ざめた顔で笑った。永遠の別れが目の前に迫っているとは思えないほど、凄艶な笑み。〝彼女〟を見つめるラズベリーの双眸は、反対に涙の中に沈んでいる。


「……これで、終わりよ。これからはあなたが次の魔女。……ふふっ、男の魔女を生まれさせたのは、私が初めてじゃないかしら。でも、いいわよね。契約を途絶えさせることの方が……よっぽど、駄目だもの、ね……」


 息も絶え絶えに軽口を叩く〝彼女〟に、次代の『魔女』を継いだ幼子――少年は顔をぐちゃぐちゃにして頭を振った。


「師匠……死なないでくださ……っ!」


 しゃくりあげながら頼んでも、意地悪な師匠はいつも通り、意地悪く笑うだけ。


「もう無理よぉ……血も魔力も足らないもの……。だから、そろそろ逃げなさい。あいつらに、渡しちゃ駄目。この契約を途絶えさせても駄目……魔女狩りなんかに負けたら……容赦、しない、わ、よ、馬鹿……弟……子……」


 〝彼女〟の身が傾ぐ。支えたくても支えきれず、地面にその血塗れの体は横たわる。目を背けたくなる背の傷からは今も絶え間なく血が流れていた。その血は少年の体も濡らしている。


「師匠!」


 必死で呼びかけ体を揺するが、焦点は合っていない。少年は察してしまった。バラのように鮮やかだった双眸には、もう少年の姿は映っていないのだと。


「……いき、な、さい、ニー……ロ」


 行きなさい。


 生きなさい。


 命じられた最後の、最期の言葉。


 少年は何度も何度も涙を拭い、震える足で立ち上がる。見下ろした〝彼女〟の双眸に、光はもうない。


 もう二度と、その声を聞くことはない。


 もう二度と、笑顔を見ることはない。


 もう二度と、怒ってもらえることはない。


 もう二度と、何かを教えてもらえることはない。


 ふらつく足で、少年は走り出す。自分自身に何度も何度も言い聞かせて。


 逃げろ。走れ。生きろ。


 残さなくてはいけない。師がその命をかけて守りぬいたこの〝契約〟を。


 継承していかなくてはいけない。師の師の師の、さらに昔の師から受け継がれてきた〝魔女〟を。


 走り、走り、走り、炎も喧騒も血の匂いも何もかもが消えてから、少年は叫んだ。力の限り、声の限り。それは言葉に出来ない無念。それは言葉にならない悲しみ。


 この日、一人の〝魔女〟が生まれた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ