第二部36話── グラドからの贈り物と、三人の未来の形
【鍛治工房──赤熱の煙と光のルーン】
軋む木扉を開けた瞬間、
むわっと熱と鉄の香りが押し寄せた。
炉の赤光が揺れ、
ルーン刻みの槌音が遠くに残滓のように響く。
「よぉ来たのう、タク。」
グラドが大きな木槌を置き、
汗を拭きながらこちらへ向き直る。
「例の品……出来たんですか?」
「当たり前じゃ。誰に頼んどると思っとる。」
工房の奥。
そこに静かに置かれていたのは──
一本の日本刀。
そして、獣人専用の篭手。
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【タクの新刀──光のルーン】
「え……これ……っ」
タクが手を伸ばすと、
刀はまるで応えるように “キィン” と澄んだ音を鳴らした。
刀身には薄い光の線が走り、
理の波長と混じり合うように淡く揺れる。
「よーやっと出来たわ。」
グラドは満足げに笑う。
「しかし日本刀は難しいもんじゃのう。
鉄の癖が強い……まるで源蔵に睨まれとる気分じゃったわ。」
「じいちゃんを……?」
「知っとるとも。」
グラドの目が細められる。
「わしは昔、よう源蔵と酒飲みながら話しとったんじゃ。
“理”だの、“気配読み”だの、難しい話ばっかじゃったが……
お前の今の戦い方、あやつとそっくりよ。」
タクは言葉を失う。
(……じいちゃん……こんなところでも、俺の道を先に歩いてたのか……)
「そしての。
その刀には微量じゃが“光のルーン”を入れてある。」
「光……?」
「ああ。屍人にはちぃとばかし効くはずじゃ。
理の斬撃に光が乗るんじゃからの。」
タクは静かに刀を鞘に収め、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます……!」
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【キャスの武器──獣人専用篭手】
「キャス。お嬢ちゃんにも一つ作っといた。」
「えっ……わ、私に……?」
グラドが差し出したのは
白銀色の獣人専用ガントレット。
纏うようにしなり、軽く、
キャスが手を通すとぴたりとフィットする。
「これ……すごい……! 腕が軽い……!」
「そりゃそうじゃ。獣人用に特化した一品じゃからの。
身体能力の底上げ、跳躍の補助……
お前さんの戦い方によう合う。」
キャスは目を潤ませながら武器を握りしめる。
「……大事にする……ありがとう、おじさん!」
「うむ。それでええ!」
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【そして──ソフィア】
ソフィアが腕を組んでニヤニヤしている。
「ねぇ〜〜グラドぉ〜〜?」
「なんじゃ。」
「私の武器は?
ねぇねぇ、ねぇ〜グラドぉ〜〜?」
「お前さんには──
50年前に渡したじゃろうが、その杖を!!」
「……あ、あれ?」
「そうじゃ!!
あれ以上の逸品なんぞ、そう簡単に作れるか!」
ソフィアが頬を膨らませる。
「いや感謝してるって!ほんとに!
でもさ……空飛ぶ魔法の箒とか無理なの?」
「知らん!!!」
「ちょっと〜!!」
工房が少しだけ揺れるほどの怒号に、
タクとキャスは思わず吹き出した。
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【別れと、次の旅路へ】
「タク。
その刀、無理はするな。
ルーンに慣れんうちは、逆に身体が振り回される。」
「はい。」
「キャス。
その武器はお前さんの力を何倍にもする。
だが無理はするなよ?」
「うん!気をつける!」
「ソフィア。」
「何?」
「……箒は作らん。」
「まだ言う!?」
三人の笑い声が、工房の煙に溶けていく。
タクは新たな刀を背に──
キャスは光る篭手を抱え──
そしてソフィアは相変わらず拗ねて──
三人は工房を後にした。
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【最後の一言──グラドの独白】
「……源蔵。
見とるかのう。
お前の孫は、ちゃんと前へ進んどるで。」
老職人はそう呟き、
静かに炉へ火をくべた。
──その炎は、
これから三人が進む未来を照らすように揺れていた。
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