第二部34話── “黒石 清九郎 盛隆” 本物との遭遇
【深林──濃霧】
森の奥は、夜のはずなのに――
なぜか“さらに黒い”闇が満ちていた。
風も止まっている。
虫の声もない。
タクは刀を抜き、足音も立てずに進む。
「……キャス、ソフィア。
ここからは……気配を殺せ。」
「うん……お兄ちゃん……なんか、変だよ……」
「理が……変質してる。
普通の屍人の“黒”じゃない。」
ソフィアも額に汗を浮かべる。
タクは深く息を吸い、
“理”を広げる。
……その瞬間だった。
木々の影が、音もなく“裂けた”。
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【初代、降臨】
そこにいたのは、
これまでの黒い影とは明らかに違う、
“黒の王者”のような存在。
黒い霧ではない。
黒い鎧ではない。
まるで“闇そのもの”を纏った武人。
ただ立っているだけなのに――
空気が重く沈む。
タクは息を止めた。
「…………」
その影が、ゆっくりと顔を上げる。
闇の眼孔の奥に、
“知性の光”が宿っていた。
(……話せる……!
こいつは……今までの屍人と違う……!)
影が口を開く。
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「……ひさしぶりよの。
白石の理よ。」
「……っ!」
タクの心臓が跳ねた。
“白石”という言葉を知っている。
しかも、理を見抜いている。
(まさか……こいつ……)
影は一歩、足を踏み出した。
足音はしないのに、地が沈んだ気がした。
「名乗れ、小童。
その剣筋……
そしてその理……」
影の眼がタクの全身を貫く。
「……あやつの流派よ。
白石源蔵の血だな。」
「ッ!?
じいちゃんを……知ってるのか……?」
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初代、語る
影はゆっくり頷いた。
「知っておるとも。」
その声は、闇の鍔迫り合いのように低く静かで、
どこか懐かしさすら含んでいた。
「源蔵は、こちらの世界で唯一……
――わしと剣を交えた男よ。」
「……ッ……!」
タクは言葉を失う。
(じいちゃんが……初代黒石と……!?
そんな……人間の範疇を超えた相手と……)
キャスが震えながら袖を掴む。
「お兄ちゃん……逃げよ……
あれ……怖い……すごく……こわい……」
ソフィアは息を呑んだまま、
初代を見据えた。
「五百年前の……“黒石家初代”。
ここまで闇に堕ちても、知性が残ってるなんて……」
影――黒石 清九郎 盛隆は、ゆっくり名乗った。
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「黒石 清九郎 盛隆。
黒石家、初代当主である。」
名乗るだけで、森の闇がたわむ。
「白石よ。
五百年経とうとも……
お主らの“理”は変わらぬのう。」
タクは刀を握りしめる。
「なんでだ……
なんで俺の名前も、理も……
じいちゃんとの関係も……全部知ってる……?」
初代は、静かな声音で返した。
「視れば分かる。
理とはそういうものだ。」
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刃を交える前──初代の“本当の目的”
「さて――白石の小童よ。」
初代はタクの顔を覗くように前へ出た。
「わしの目的は……お主ではない。」
「……え?」
「お主を殺すつもりもない。
今はまだな。」
初代は森の奥――“北”を指した。
「闇は満ちておる。
終焉の地で、核が蠢いておる。」
「……核……!」
「白石の理が動くのを、
わしは、待っておる。」
初代はタクを“通過点”のように見ていた。
「お主が、終焉の地まで辿り着くならば――
その時、わしは“また立つ”。」
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黒石の初代、去る
「白石よ。
源蔵の孫。
あやつに伝えるがよい。」
タクの心臓が止まりそうになる。
(……じいちゃんに……?)
「“五百年、わしは待ち続けた”とな。」
黒い霧が渦を巻き――
初代はそのまま闇へと溶け込むように消えた。
風すら吹かない静寂だけが残った。
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【残された三人】
「……ねぇお兄ちゃん……」
キャスが震えた声で袖を掴む。
「今の……人じゃ……ない……よね……?」
「……ああ。」
タクは震える手で刀を納めた。
「でも……あれが……
“黒石家初代”なんだ……」
ソフィアは静かに呟いた。
「タク。
あれは……本当に桁違いよ。
今の私たちじゃ、触れるだけで死ぬ。」
「……分かってる。」
タクは拳を握りしめる。
(じいちゃん……
本当にとんでもねぇ相手と戦ってたんだな……)
だが同時に――
(でも……あの初代は、俺を殺さなかった。)
その“意味”が、胸に重く沈む。
こうして、
**黒石 清九郎 盛隆――初代との“正史的遭遇”**が、
タクたちの運命を強く塗り替えることとなった。
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