第二部29話── 白い少女「ミナ」──名を持たない者に与えた、“最初の灯り”**
【公国街道──夜の静寂】
白い少女を背負い、
タクたちは中央図書院へ向かっていた。
夜の空気は冷たいが、
少女の体温はさらに低かった。
「タク……その子、重くない?」
ソフィアが横を歩きながら心配する。
「軽すぎるくらいだ。
……ちゃんと食べてねぇんだろうな。」
キャスが少女の頬をそっと触る。
「お兄ちゃん……この子……冷たいよ……」
少女はうっすら目を開け、
タクの肩越しに空を見つめた。
「……寒く、は……ありません。
わたしは……“光”が……足りないだけ……」
(光が……足りない……?
人間の言い方じゃねぇよな……?)
ソフィアが小声で囁く。
「タク……この子……
“光そのもの”で身体が維持されてる感じがする。」
「そんな存在、聞いたことねえぞ……?」
「私も読んだことないわ。
図書院に行くしかない。」
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【少女との会話──“名の空白”】
街道の途中、少女がタクの背中でぽつりと呟く。
「……白石。
どうして、わたしを助けたのですか……?」
タク:「なんでって……
困ってるやつがいたら助けるだろ。」
少女の瞳が、小さく揺れた。
「……わたし……
あなたに……“救われたことがある”気がします……」
ソフィア:「え……?」
タク:「会ったことねぇぞ?」
少女は首を横に振る。
「……記憶ではありません。
“感じる”のです……
あなたの理が……とても……懐かしい……」
キャスが不安そうにタクの袖を握る。
「お兄ちゃん……
この子、なんか……タクのこと……知ってるの……?」
タクは答えられなかった。
(俺の“理”と、この少女の光……
何か関係が……?)
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【少女に“名前”を与える】
しばらく歩くと、少女が小さく呟いた。
「……呼ばれたい……」
タク:「ん?」
「……あなたたちが……
呼びやすい名前を……
ください……」
ソフィア:「名前……無いの?」
「……ありません。
影に触れられる前から……
何も……」
キャスが少し嬉しそうに言う。
「じゃあ……つけようよ!お兄ちゃん!」
タク:「俺かよ!?」
ソフィア:「当たり前でしょ。
この子、タクにだけ特別に反応してるもの。」
タクは苦笑した。
(名前、か……
どうすりゃいいんだよ……)
ふと、少女の髪が月光を受けてきらりと光った。
「……月に似てるな。」
「……つき……?」
「いや……なんつーか……
“光が満ちる直前の色”っていうか……」
ソフィアが微笑む。
「なら、“ミナ”なんてどう?」
「“ミナ”?」
「満ちる、の“満”から。
光が満ちる子って意味。」
キャス:「かわいい!!」
少女は胸に手を当て、目を閉じた。
「……ミナ……
その名……あたたかい……
気がします……」
タク:「じゃあ、お前は今日から“ミナ”だ。」
少女──ミナは
小さく、小さく、微笑んだ。
「……ありがとう……
タク・シライ……」
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【公国中央図書院──巨大なる光の塔】
三人と一人がたどり着いたのは、
公国最大の知の集積──中央図書院。
塔のようにそびえ立ち、
窓から漏れる光が夜を照らす。
キャス:「わぁ……でっかい……!」
ソフィア:「ここなら“ミナ”について分かる資料があるはず。」
タクはミナを背負ったまま、
重い扉を押し開けた。
ギ……ギィ……
そこは静寂の海のようだった。
本棚が果てしなく並び、
魔石の光が淡く照らしている。
だが──タクは気づいた。
(……なんだ……
この“ざわつき”……?)
ミナの指が小さく震える。
「……ここ……
“なにか”が……眠ってる……」
タクの視線が、奥の黒い書庫へ向いた。
(まさか……
ここに“屍人”“黒の人”の情報が……?)
ソフィアも静かに頷く。
「ミナを守りながら……行くわよ、二人とも。」
キャス:「うんっ!」
タク:「行こう。」
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**ミナの名が刻まれ、
本格的な“図書院編”がここから始まる。
影の正体、“光の器”、闇の歴史──
三人と一人は、“世界の核心”に触れ始める。**
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