第二部27話── 黒の残滓(ざんし)。タクの“理”が揺らぐ夜**
【森を離れた後──静かな焚き火】
黒石初代が闇に消えた後。
三人は街道の外れまで戻り、
人気のない開けた場所で焚き火を起こした。
だが──
タクは火を見つめたまま、一言も発していない。
「……タク。大丈夫?」
ソフィアが慎重に声をかける。
「…………」
タクは答えない。
ただ右手の指が微かに震えていた。
(今、声をかけたら……折れるかもしれない……)
キャスは不安そうに尻尾を丸め、
タクの腕にそっとしがみついた。
「お兄ちゃん……やだよ……
お兄ちゃん……どこか行っちゃいそう……」
タクのまぶたが、ようやく動いた。
「……ここにいるよ。
どこにも行かねぇ。」
その声はかすれていたが、
キャスの胸に染みるように優しかった。
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【タク──心の奥の傷】
しばらくして。
タクは静かに口を開いた。
「……あいつ……
黒石 清九郎 盛隆……」
「うん。」
ソフィアが隣に座る。
「……強いとか……そんなレベルじゃねぇ……
“理の圧”が……
近づくだけで刺さる。
呼吸するだけで……体が削られた。」
タクは拳を見つめる。
「……じいちゃん……
あんな化け物と戦ったのか……」
その言葉に、ソフィアの瞳が揺れた。
(やっぱり……相当精神を削られてる……
これは放っておけない)
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【ソフィアの“治癒”──理の乱れを整える】
「タク、こっち向いて。」
「……ん?」
ソフィアはそっとタクの手を握り、
自分の手を重ねる。
「“理”が乱れてる。
黒石初代の“闇の理”が
ほんの少しだけ混ざってるの。」
「……混ざる……?」
「ううん。汚染というより……
“揺らぎ” ね。
あなたの理が負けかけた証拠。」
ソフィアの指先が淡く光り、
タクの手の甲へふれる。
じんわりと温かさが広がった。
「ん……っ……
おい……なんか……胸が軽く……」
「当然。
エルフの光は“闇の理”を整えるのに向いてるの。
源蔵さんが教えてくれたでしょう?」
「……ああ。
じいちゃん、よくエルフの魔法の……
光の話してたな……」
「でしょ?私がそばに居る。
だからタクは一人じゃない。」
その言葉に、タクの肩がほんの少しだけ下りた。
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【キャス──恐怖と決意】
キャスはタクの反対側に寄り添い、
ぎゅっとタクの腕を抱く。
「お兄ちゃん……ごめんね……
私、何もできなかった……」
「そんなことねぇよ。」
タクはキャスの頭に手を置く。
「お前が横にいるだけで助かってる。」
「……ほんと?」
「ああ。
逃げずに側にいてくれた。それで十分だ。」
キャスの目が潤む。
「……もっと強くなる……
お兄ちゃんの隣に立てるくらい……!」
ソフィアが優しく笑う。
「うん。キャスは成長してるよ。
タクが見えてないだけでね。」
「そ、そんなことないけど……!?」
タクが慌てる。
「うそつけー。
あなた、キャスのこと心配しまくってるくせに。」
ソフィアが呆れたように笑う。
「それは……その……」
タクが言葉に詰まると、
キャスは照れながらも嬉しそうに尻尾を揺らした。
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【ソフィアの不意の質問】
少し場が落ち着いた頃。
ソフィア:
「タク。
あんた……黒石初代に言われたこと、覚えてる?」
タク:
「……“理が満ちたとき試す”ってやつか。」
「うん。」
ソフィアは少し真顔になる。
「それってつまり……
あんたが“白石の理”を高めれば高めるほど……
黒石初代が近づいてくるってことよ?」
「……ああ。
避けられねぇ。」
タクの指先に、電気がパチッと走った。
(白石の理が……動いてる?
さっきの恐怖のせいか……
初代との因果のせいか……)
ソフィア:
「……私ね。
あんたが怖い時は、全部隣に立つよ。」
タク:
「……へ?」
「キャスもいる。
私もいる。
だから“理の運命”なんて言葉に飲まれないで。」
キャス:
「お兄ちゃん……がんばろ……!」
タクは二人を見て──
小さく頷いた。
「……ああ。
逃げねぇよ。
二人がいる限り。」
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【そして──新たな“兆し”】
その時だった。
タクの胸の奥で──
“理が震えた”。
ビリ……ッ。
(……なんだ……?
誰か……来る……?)
ソフィアも同時に瞳を上げる。
「あれ……
この気配……」
キャス:
「お兄ちゃん……また……黒?」
ソフィア:
「違う……これは……
赤でも黒でもない……
“光” の気配……?」
タクは焚き火を消し、立ち上がる。
「……誰だ……?」
森の奥から、
ランタンの灯りがふわりと揺れ──
白いローブの少女が歩いてきた。
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あけましておめでとうございます。
本年もみなさまどうぞ宜しくお願いします。




