第二部25話── 赤石悠真、影として現る。届かない“同じ歳”の理**
【夜の公国街道──静寂の異変】
グラウフェンの調査を終え、三人は公国中央へ戻る街道を歩いていた。
夜風は冷たい。
月は雲に隠れている。
「……今日は、変な気配が多いね」
ソフィアがふと空を見上げる。
「黒の人の気配じゃねぇよな?」
タクが言う。
「うん。あれほど濃くない。
……でも “理そのもの” が揺れてる。」
キャスの猫耳がピン、と立つ。
「お兄ちゃん……
なんか……来る……」
風の向きが変わった。
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【その男──赤い“理”】
街道の先。
灯りひとつないはずなのに、赤い色だけが“そこだけ濃い”。
人影が歩いてきた。
背丈はタクとほぼ同じ。
だが歩き方にはまるで迷いがない。
一歩ごとに空気が震える。
ソフィアが息を吸い込む。
「……タク。あれ……
“理の気配”があなたと同じ強さ……
いや……それ以上。」
キャスは思わず一歩タクの後ろに下がった。
「お兄ちゃん……怖い……
でも……どこか、懐かしい匂いがする……」
タクは前へ出た。
「……誰だ?」
その男はゆっくり顔を上げた。
少年のようなあどけなさを僅かに残しつつ、
瞳の奥には“燃える赤”がある。
声は落ち着いていた。
「…………白石の理、だな。」
タクの心臓が跳ねた。
(なんで俺の“理”がわかる……!?)
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【言葉の温度差】
タクは身構える。
「……あんた、誰だ?」
男は答えない。
ただタクの“理”を確かめるように見つめる。
「……想像以上だ。
白石の後継が、ここまでの“気”を纏うとは。」
「お前、俺の家を知ってるのか?」
男は少しだけ口角を上げた。
笑ったというよりは──懐かしむような表情。
「知っているとも。
……白石の小童のことは。」
“聞き覚えのある口調”。
だがタクには記憶がない。
「ふざけんなよ。
お前とは初対面だろ。」
男は首を横に振る。
「理は覚えている。
……500年前からな。」
ソフィアが凍りついた顔でつぶやく。
「たった今の一言で確信した……
この人……“人間じゃない”。」
キャスはタクの服をぎゅっと掴む。
「お兄ちゃん……あれ……
怖い……
でも、泣きそうなくらい悲しい匂いがする……」
(……悲しい?)
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【悠真、名前を伏せたまま】
タクは一歩踏み出す。
「……質問に答えろ。
お前は何者だ?」
男は静かにタクの真横を通り過ぎる。
肩が触れそうな距離。
だが殺気も敵意もない。
ただ、あまりに深い“絶望”がある。
「……いずれ、また会う。
その時に話す。」
タクは思わず振り向いた。
「待て!!」
男は振り返らないまま言った。
「白石。
お前はまだ、自分の理の“半分”しか使えていない。
……整えろ。
さもなくば──
黒に呑まれる。」
タクの喉がひりつく。
「なんで……俺のこと、そんな……」
男はようやくタクのほうを見た。
その目は、炎ではなく……
どこまでも深い、喪失の色。
「……俺と、お前は──
“同じ道”を歩く者だからだ。」
タクには、その意味が全くわからなかった。
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【通りすぎた後に残るもの】
男は街道の闇に消える。
風が止まり、
草の音すら聞こえなくなる。
「……タク……今の……誰……?」
「わからねぇ……
でも……強かった。
あれは“戦って勝てる相手じゃない”。」
ソフィアは震える声で言う。
「タク……
あれ、ただの冒険者じゃない。
“理の覚醒者”……
しかも……あなたと同年代の……」
キャスが言った。
「お兄ちゃん。
……たぶんね。
さっきの人……
“すごく、すごく悲しい顔”してた。」
(……同じ歳……
理を感じる……
悲しい顔……
500年前の理を知っている……)
タクの胸に
ひとつの仮説だけが浮かんだ。
──赤石家の誰か。
でも、まだ名前も出ない。
戦わない。
味方とも敵とも決まらない。
ただ、
絶対にもう一度出会う運命だけが確定した。
こうして──
“赤石 悠真”との最初の邂逅は、
何も始まらずに終わった。
だがそれは、
これから始まる第二部の核心そのものだった。
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