第二部15話── ソフィア、ひとりで森へ。 胸に残る違和感と、過去の記憶
【公国・宿の前──まだ薄暗い朝】
まだ空が灰色の頃。
ソフィアはひとり、静かに荷物をまとめていた。
キャスはぐっすり眠り、
タクはまだ起きてこない。
「ふふ……やっぱり寝坊ね、あの子。」
ソフィアはそっと笑う。
だけど次の瞬間、
その表情は“冒険者”のそれに変わった。
「……昨日の黒の人。
絶対……あれ、ただの屍人じゃなかった。」
胸の奥に、チリッとした痛み。
“理の歪み”
“壊れる寸前の魂”
“言葉にならない叫び”
ソフィアは昨日、あの瞬間だけ──
奇妙な“光の反応”を感じていた。
「タクには言わなかったけど……
あれ、間違いなく“光”に反応してた。」
でもまだ確信には足りない。
だからこそ──
「グラドに、聞かないと。」
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【森の入口──ソフィア単独の道】
ソフィアは深くフードをかぶり、
風の魔力を足元にまとわせる。
「風よ──
私を“いつもの道”へ。」
スッ……!
ソフィアの身体が、
風そのもののように軽く森へ滑り込む。
枝が避け、
落ち葉が巻き上がり、
木々が道を開ける。
(タクとキャスを連れて行く場所じゃないわ。
今はまだ……危険すぎる。)
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【森の奥へ──ソフィアの胸に“記憶”】
深く、深く森へ入るほど──
ソフィアの歩みはゆっくりになる。
そして、ふと見上げた瞬間。
(……懐かしい。ここ。)
脳裏に、ある記憶が蘇る。
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【回想──ソフィアが初めてグラドと会った日】
幼いソフィアは、森で泣いていた。
光魔法が暴走し、
村人を傷つけかけてしまった日。
「……私は、いらない子なんだ……」
泣きながら歩くソフィアの前に、
ひとりのドワーフが現れた。
髭も眉もボサボサ、
腕は丸太みたいに太い。
だけど──
その瞳だけが、驚くほど優しかった。
グラド「おい、嬢ちゃん。」
ソフィア『……なに。』
グラド「光が強いからって泣く奴があるか。
お前みたいな魔力量、そうそういねぇぞ?」
ソフィア『迷惑なんだもん……!』
グラドは頭をぽんっと叩いた。
グラド「迷惑かどうかは使い方次第だ。
光はな……“導くためにある”んだよ。」
ソフィア『……導く?』
グラド「悲しみじゃなくて、未来を照らす光さ。」
その言葉に、
幼いソフィアは初めて泣き止んだ。
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(あの時の“導く光”……
昨日の屍人は、それに反応したように見えた。)
(じゃあ……助けられる可能性がある?)
だからこそ、
グラドに確かめないといけない。
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【森の奥深く──風とソフィアの独白】
「ねぇタク……」
ソフィアは歩きながら、
小さくつぶやいた。
「私、いつもあんたの無茶に呆れてるけど……
ほんとはね、
“助ける方法を探す”って言ったあんたの言葉……
すごく、嬉しかったのよ。」
胸の奥が、温かい。
「絶対……間に合わせるから。」
「グラドに会って、
屍人に対抗する手段を持って帰る。」
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【そしてソフィアは走り出す】
森が深くなる。
空気が重くなる。
それでもソフィアは笑った。
「待っててね、タク。
キャスも。」
風がソフィアのローブを押す。
「これが終われば──
もう誰も、昨日みたいにはさせない。」
ソフィアは風を蹴り、
森の奥へ一気に走り出した。
向かう先は、
ドワーフのルーン職人・グラド=スカーヴの隠れ家。
──そしてここから、第二部は大きく動き始める。
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