第二部13話── 屍人の正体へ。一歩近づく“黒の痕跡”
【グラウフェン外れの山道──夜】
月は雲に隠れ、
山の空気は冷たく湿っていた。
タク、ソフィア、キャスの三人は
“黒の人”が出ると噂された山道を進んでいた。
キャス「……お兄ちゃん……ここ……嫌な匂い……する……」
タク「分かるか?」
キャス「うん……すごく……冷たい……死んだ匂い……」
ソフィアも周囲を警戒しながら話す。
「キャスの感覚は獣人の中でも強い。
……この先に何かあるわね。」
タクは刀に手をかけ、
理の気配を探るように深呼吸した。
(……風が止んでる。
夜なのに……森が呼吸してねぇ……)
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【黒の痕跡】
山道の途中。
巨木の根元に、奇妙な黒い“焦げ跡”があった。
キャス「……これ……魔物の爪……じゃない……」
焦げ跡は獣の爪跡のようだが、
焼けているわけでもない。
黒い靄の“残り香”がへばりついていた。
ソフィアが触れようとした瞬間──
タク「触るなソフィア!」
「っ……!」
黒い靄が“生き物のように”指にしがみつこうとしていた。
「……危な。
これは……やっぱり屍人の痕よ。」
タク「つまり……あいつは“確実にここを通ってる”ってことか。」
キャス「……おにいちゃん……帰ろ……?
あれ……倒せないよ……怖いよ……」
キャスの不安に、
タクはそっと頭に手を置いた。
「怖いのは当然だ。
けど安心しろ。
今は“追わない”。
まずは情報だ。」
ソフィアも頷く。
「うん。今の私たちじゃ勝てない。
でも……倒し方は絶対ある。」
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【そして──現れる】
その時だった。
“ひゅ……”と風のない森を、
何かが横切った。
キャス「っ……!!」
キャスの耳が跳ね上がる。
「お兄ちゃん、右……!!」
タクが刀を構え──
ソフィアが魔力を広げ──
闇の中に、
“黒の人”が立っていた。
昨日の奴とは違う。
しかし同じ“黒霧”と“崩れた意識”を持つ存在。
タク「……今日は逃げねぇぞ。」
黒の人「……た……す……け……
……た……す……け……」
苦しそうに、
壊れた声を漏らしていた。
キャス「お兄ちゃん……泣いてる……あの人……」
タクは息を呑む。
黒の人の“涙”は、黒い靄だった。
瞳も、皮膚も、もう人のものではない。
(……この姿になっても……
まだ“助けて”って言うのかよ……)
タク「ソフィア……こいつ……」
ソフィア「うん。
まだ完全に闇に落ちてない。
“助けを求めてる屍人”よ。」
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【屍人、暴走】
黒の人「……ころ……せ……ころ……せ……
……おれ……を……ころせ……」
次の瞬間。
バッ!!
黒霧の刃がタクへ迫る。
タク「速いっ……!」
昨日よりも速い。
理の読みでも追えないほどに。
ソフィア「タク、回避!!」
タク「くっ……!迅雷──空歩!!」
タクは空気を蹴り、横へ飛ぶ。
黒霧の刃が地面をえぐり──
石を溶かすように黒く染めた。
キャス「おにぃちゃん!!
あれ……触っちゃダメ!!死んじゃう!!」
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【分析と退避】
ソフィアはすぐに状況を読む。
「タク!!
この屍人……“昨日より深く闇が浸食してる”!!
防御も攻撃も昨日の比じゃない!!」
タク「……まずいな……!」
黒の人は叫びながら迫る。
黒の人「たす……け……て……
ころ……せ……っ!!」
人間の声と、闇の叫びが混ざり、
耳が痛くなるほどの衝撃になる。
キャス「お兄ちゃん!!
やだ……これ以上見たくない……!!」
タクは決断した。
「……退くぞ。
今の俺たちじゃ“救えない”。
けど……必ず戻ってくる。」
ソフィア「行くわよキャス!!」
「うんっ!!」
三人は一気に山を下りた。
黒の人は追わず、
ただ壊れた声で叫び続けていた。
「たすけ……て……
……ころして……だれか……」
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【宿で──静かな余韻】
宿に戻っても、誰もすぐには口を開けなかった。
先に口を開いたのはキャスだった。
「……お兄ちゃん……
あの人……ほんとは……助けてほしいのに……
どうして……あんな……?」
タクは拳を握りしめる。
「……黒石の闇だ。
屍人は、理を奪われ……
苦しみ続けてる。」
ソフィア「でもタク。
今の私たちじゃ“救い方”も“倒し方”も分からない。」
タク「……ああ。
だから情報を集める。」
キャス「……うん……
お兄ちゃんがいるなら……大丈夫だよね……?」
タクはキャスの頭を撫で、静かに微笑んだ。
「大丈夫だ。
三人で絶対に……止めるから。」
こうして──
屍人との二度目の遭遇は、
恐怖と哀しみ、そして“救う”という決意を三人に刻みつけた。
この夜を境に、旅は“調査のフェーズ”へと進んでいく。
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