第二部12話── 黒の人、初遭遇。理解不能の“屍人”**
【黒い影を追って】
公国の外れの街で噂を聞いた翌日、
三人は山道を中心に聞き込みと探索を続けていた。
だが──
「……いないな。」
「今日も“影だけ見た”とか、そんな話ばっかりね。」
「おにいちゃん……なんか怖い……
気配……ぜんぜん読めない……」
三日間、痕跡すら掴めなかった。
だが四日目。
太陽が落ちかけ、森に影が伸びる頃。
ソフィアがふいに足を止めた。
「……タク。」
「どうした?」
「……今、いた。
“黒の気配”……すぐそこ。」
「キャス!!」
「うんっ!!」
三人は駆け出す。
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【ついに──黒の人】
薄闇の森。
そこで“それ”は立っていた。
木々の間、
地面に足が触れているのかも分からないほど静かに。
「……あれ……」
キャスが震える声で指を差す。
黒い人の姿は 人型。
しかし体全体を“濃い黒霧”が包み、
輪郭さえ曖昧だ。
タクが一歩前へ踏み出す。
「おい! あんた!」
黒霧の中の顔がゆっくりこちらを向く。
「……た………………たす……け……て…………」
「っ……!?」
声は聞こえるのに、意味が聞き取れない。
言語でも音声でもない、
まるで“壊れた意識の断片”が漏れているようだった。
ソフィアが小声で言う。
「ねぇ、タク……
これ……たぶん、屍人 かも。」
「……やっぱりそうか。
俺も、そんな気がした。」
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【暴走の瞬間】
その瞬間だった。
うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!
黒の人が突然、狂ったように叫び──
黒霧の尾のようなものがタクへ飛びかかる。
「ッ!?
速ッ!!?」
タクは反射的に後退。
「如水──
鋭斬ッ!!」
斬撃が黒の霧を裂く……
はずだった。
ガァァァンッ!!!
「なっ……!?」
斬撃が“弾かれた”。
水刃が音を立てて散り、
タクの肩をかすめながら霧が通り過ぎる。
「嘘だろ……!?
一式でも、二式でも斬れねぇ……!!」
「タク!!下がって!!」
ソフィアが叫ぶ。
キャスが震えた声で言う。
「やだ……怖い……!
あれ……生き物じゃない……!」
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【撤退判断】
黒の人は、再び意味不明の声を漏らす。
「……た……けて……
……ころ……せ……ころ……せ……」
その言葉に、キャスの瞳が大きく揺れた。
「タクッ!!
ここは一旦……帰ろうよ……!!
危険だよ!!
あれ……絶対普通の敵じゃないよ!!」
「…………っ」
タクは歯を食いしばりながら
黒の人を睨みつけた。
「……くそ……
分かった。今は無理だ。
ソフィア、キャス、下がれ!!」
「了解!!」
「うん!!」
三人は息を合わせ、一気に森の奥から後退する。
黒の人は追ってこなかった。
ただ、その場に立ち尽くし、
どこか遠い世界を見るように震えていた。
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【撤退後──静かな恐怖】
森を抜けたところで、三人は息を整える。
「……なに、あれ……
どうしてタクの斬撃が効かないの……?」
「キャス。
“黒の人”は普通の魔物じゃない。
“生きた人間が闇に侵食された姿”よ。」
ソフィアが苦い声で言う。
「屍人ってやつか……」
タクが拳を握る。
「うん。
魂も理も壊されて、
ただ闇に操られてるだけ。」
キャスはそっとタクの腕を掴む。
「お兄ちゃん……
あれ……どうするの……?」
タクはキャスの手を握り返し、
ゆっくりと答えた。
「……必ず止める。
でも今は“力不足”だ。
まずは情報を集める……
そして対策を作る。
絶対に……救う方法を見つける。」
ソフィアもうなずく。
「うん。
屍人は、世界の核に由来する“闇”の力。
放っておいたら、誰かが殺される。
私たちがやらなきゃいけないのよ。」
三人の影が
沈む夕日に長く伸びた。
こうして──
黒の人(屍人)との初遭遇は
敗北でも勝利でもない、“警告”として三人の胸に刻まれた。
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