第二部6話── 猫耳の少女、最初の言葉は「……お兄ちゃん?」**
【深い森──血の匂い】
茂みをかき分けた瞬間、
タクは思わず息を呑んだ。
倒れていたのは、
まだ幼さの残る猫耳の少女。
腕は細く、足は泥と血で汚れ、
背中には大きな裂傷が走っていた。
呼吸は浅い──
今にも止まりそうなほどに。
「ソフィア……!!」
「わかってる……っ!!」
ソフィアは膝をつき、少女の体を抱き寄せた。
その手が光を帯び始める。
◆ ◆ ◆
【光の治癒──ソフィアの本気】
「《生命光環》……
よし……大丈夫、大丈夫よ……」
ソフィアの手のひらから、
温かい白光が溢れ、少女の裂傷を包む。
臓器の損傷、内出血、毒の残滓。
ひとつずつ光が浄化し、細胞が再生していく。
「……ソフィア、こんな早く……」
「タク、喋らないで。
一つでも集中切らしたら、この子……死ぬわ。」
ソフィアの額から汗が落ちる。
普段の軽い調子とは違い、
今はただ、誰かを救いたいという“本気の顔”だった。
数十秒でも、数分にも感じる時間が流れ──
「……よし……あと少し……」
少女の傷が完全に閉じ、
呼吸がゆっくりと安定し始めた。
◆ ◆ ◆
【目覚めの瞬間】
「……っ……ん……」
猫耳がぴくりと動いた。
少女の瞼が少しだけ開く。
薄い瞳が、タクとソフィアを順に見て──
そしてタクを見つめた瞬間、
ぽつりと、弱い声で言った。
「……おに……ちゃん……?」
「……っ!?」
タクの心臓が跳ねる。
(俺……“お兄ちゃん”…?)
驚きに声が出ないタクの横で、
ソフィアがちょっとだけムッとした顔をした。
「いや何で最初にタクなのよ。
治したの私なんだけど?」
「お前、今は嫉妬するな!」
「してないっ!!」
◆ ◆ ◆
【震える手】
少女は涙を浮かべ、
タクに向かって弱々しく手を伸ばした。
「……おにい……ちゃん……こわ……かった……
まっくらで……さむくて……」
タクは優しくその手を握った。
「大丈夫だ。
もう誰も来ない。
俺たちがいる。」
少女が安心したように息を吐き、
タクの胸元に額を寄せた。
タクは微動だにせず受け止める。
(……こんな小さな子が……
どんだけ怖い思いしたんだよ……)
◆ ◆ ◆
【キャスという名前】
「君、名前……言えるか?」
「……キャス……
キャスって……いうの……」
「キャス。
良い名前じゃない。」
タクは微笑んだ。
ソフィアも隣でうなずく。
「うん。可愛い名前。」
「……おねえちゃん……?」
「えっ、私は“お姉ちゃん”なの?
まぁ……いいけど。」
ソフィアはちょっと照れながらも、
キャスの頭をそっと撫でた。
キャスは猫のように嬉しそうに目を細める。
◆ ◆ ◆
【そして仲間へ】
「キャス。
しばらく歩けそうにないし、
公国に行くまでの間……俺たちと来るか?」
「……いく……
おにいちゃんと……いく……」
「タク、あんたもう“お兄ちゃん”決定ね。」
「いや、別に兄じゃないだろ……?」
「この子が言ってるんだからそうなの!」
「お前いつも強引だよ!!」
キャスはタクの腕にぎゅっとしがみつき、
もう離す気はなさそうだった。
ソフィアはその様子を見て微妙に頬を膨らませつつも、
どこか優しげな表情を浮かべていた。
こうして──
**キャスは、
タクとソフィアの“家族のような仲間”として加わった。**
この出会いが、
後に大陸を揺るがす旅の第一歩となることを
まだ誰も知らない。
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