第二部3話── 国王の褒美と、静かな再会**
【王城──褒美の間】
王座の前に、黄金と宝石で彩られた箱が運ばれた。
重厚な蓋が開かれると──
眩しいほどの 金貨 が、まさに「ぎっしり」と詰まっていた。
「タク・シライよ。
これは、そなたの命を懸けた功績に対する褒美だ。」
国王アウグストが、満面の笑みで告げる。
「金貨──百枚。
家一つ買える額である。」
「ひゃ……百枚……!?」
タクは声が裏返った。
思わず一歩、後ずさる。
(やべぇ……人生で見たことない量と額だ……)
ソフィアが横から、ひょいっと箱を覗き込む。
「へぇ〜。……思ったより少ない?」
「お前の金銭感覚どうなってんだよ!!」
国王は豪快に笑い、タクの肩をドンと叩いた。
「そなたは我が国の恩人だ。
その名は、すでに国中に響き渡っておる。」
そして、王はソフィアに目を向ける。
「ソフィア殿。
そなたもまた、タク・シライを連れてきてくれた恩人だ。」
「うんうん、金貨は半分こでいいわよね?」
「言ってない!!?」
周囲の文官や騎士たちが、思わず吹き出す。
王はさらに大笑いした。
「ふははは!
面白い娘だな!
……タク・シライ、そなたは良き仲間に恵まれておる。」
タクは、なんとも言えない気持ちで頭を下げた。
◆ ◆ ◆
【公国への紹介状】
褒美の儀が終わると、国王の表情がわずかに引き締まった。
「……タク・シライ。
そなたの“理”は、この国を越えて、さらに北を見ておる。」
「え……?」
「公国ラインハルトは、
終焉の地からもっとも近い軍事国家だ。
理の乱れを、最初に感じるのも奴らであろう。」
王は、紋章入りの重々しい封筒を取り上げた。
「これが、公国への紹介状だ。
公王は寡黙な男だが……
そなたを見れば、何かを察するはずだ。」
タクはそれを、両手でしっかりと受け取った。
(“北”……)
その言葉が、胸の奥に重く沈む。
隣でソフィアが、小声で囁いた。
「行くしかないわね、タク。
あんたの“やるべきこと”、きっとそこにある。」
タクは、黙ったままうなずいた。
◆ ◆ ◆
【王立医療院──静かな部屋】
白石造りの廊下は、外の喧騒とは別世界のように静かだった。
ここは王立医療院──
重傷の騎士や冒険者たちが運び込まれる場所だ。
タクとソフィアは、
腐敗毒に侵されたガイルとニーナのお見舞いに来ていた。
扉を開けると──
ガイルはまだ深く眠っていたが、呼吸は落ち着いている。
ニーナは上半身を起こし、壁にもたれていた。
「……タク、じゃん……」
ニーナが、かすれた声で笑う。
タクは急いでベッド脇の椅子を引き寄せた。
「無事で……よかった……」
「俺も……なんとか、生きて戻れた。」
言葉が続かない。
喉の奥が詰まり、視線を落とす。
ニーナは、ゆっくりと瞬きをした。
「双頭の大蛇……あれを、一人で……?」
タクは答えられない。
沈黙を破ったのは、ソフィアだった。
「そうよ。
すっごく無茶してね。
……死にかけてたから、私が拾ってきたの。」
「拾っ……」
ニーナは小さく吹き出した。
「ふふ……あんたらしい……
……次はさ、ちゃんと……
三人とも、生きて会おうね……」
「……ああ。」
「泣かないでよ、タク……?」
「泣いてねぇよ。」
(……泣きそうだったけどな)
横のベッドでは、ガイルの寝息が静かに響いている。
タクは、その大きな手を見つめた。
(俺は──もっと強くならなきゃ、だな)
◆ ◆ ◆
【王国の数日間】
それからの数日は、嵐の前の静けさのように穏やかだった。
•市場でソフィアが勝手に食べ歩く
•魚の串焼きを三本連続で平らげて文句を言う
•タクの部屋を勝手に片づける
•金貨百枚を、当然のように半分に仕分ける
「はい、五十枚ずつね?」
「いや待て!?
なんで当然のように二つの袋に分けてんの!?」
「だって私、助けたし?」
「……それは……まぁ、そうなんだけどさ……」
「はい、良い返事♪」
(絶対、俺の金銭感覚おかしくしてくる……)
そう思いながらも、
この数日が嫌ではない自分に気付く。
◆ ◆ ◆
【旅立ちの朝】
数日後の朝。
タクは王城前の石畳に立っていた。
背中には旅支度の荷物。
腰には祖父の刀。
そして──
ソフィアが、いつものように隣にいた。
「公国に行くんでしょ?
ほら、早く行こ。」
「あのさ……一応聞くけど。」
「ん?」
「お前……ついてくる気、満々なんだな?」
「当たり前じゃん?
あんた死んだら困るし?」
「理由それかよ!」
「あと、あんたの金貨、半分は私のだし?」
「やっぱり返す気ねぇだろ!!」
ソフィアはクスクス笑って、タクの腕を軽く引いた。
東の空から朝日が昇り、
王城の白い壁を黄金色に染めていく。
こうして──
**タク・シライとソフィア・フランの大陸冒険は、
本当の意味で幕を開けた。**
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