第6話 祖父の最後と、残された扉
※本編の物語は第12話から本格始動します
※第1〜11話は「扉が開くまでの記録」です
朝だった。
雨は上がっており、
庭の土だけが黒く濡れていた。
拓海は、理由の分からない胸騒ぎに目を覚ました。
(……じいちゃん……?)
◆ ◆ ◆
【静かすぎる朝】
縁側に、祖父の姿はなかった。
台所にも、
庭にも、
どこにもいない。
「……じいちゃん?」
返事がない。
胸がざわつき、
足が勝手に廊下の奥へ向かう。
祖父の部屋――
障子が、少しだけ開いていた。
◆ ◆ ◆
【白石源蔵、最期の朝】
布団の中で、
祖父・白石源蔵は、静かに横になっていた。
呼吸は、
浅く、
ゆっくりと――まだ、あった。
「……じい、ちゃん……」
膝が崩れ落ちる。
源蔵は、かすかに目を開いた。
「……来たか、拓海」
声は、まるで風のように細かった。
「今……医者……呼ぶ……」
「よい……」
首を、小さく振る。
「わしは……もう……行く」
言葉の意味を、
考えたくなくて、
拓海は唇を噛みしめた。
◆ ◆ ◆
【最後の言葉】
源蔵の指が、拓海の手首を掴んだ。
「……扉はな……」
微かな声。
「家に……残る……」
胸が、締め付けられる。
「白石の血が……絶えぬ限り……
扉は……お前を……待つ……」
「……どういう、意味だよ……」
源蔵は、うっすらと笑った。
「お前は……行く……
わしが……行けなかった……先へ……」
拓海の視界が滲む。
「……一人で……行くな……」
「……え?」
「……独りで……背負うな……」
手の力が、ゆっくりと――ほどけていく。
◆ ◆ ◆
【別れ】
源蔵は、最後に小さく息を吸い――
そして、静かに吐いた。
次の呼吸は、来なかった。
「……じい、ちゃん……?」
何度呼んでも、
もう応えはない。
白石源蔵は、
その朝、静かに息を引き取った。
◆ ◆ ◆
【葬儀】
小さな町の、
小さな葬儀だった。
親戚も、
近所の人も、
誰も“扉”のことを知らない。
ただ「達人の老人」として、
静かに手を合わせる。
拓海だけが──
違う別れを、知っていた。
◆ ◆ ◆
【一人になった夜】
すべてが終わり、
家に戻ると、音が消えていた。
道場も、
縁側も、
庭も――
すべてから“人の気配”が抜け落ちていた。
拓海は、道場の中央に座り込む。
(……本当に……いなくなった……)
◆ ◆ ◆
【木箱】
視界の端に、
祖父が決して触らせなかった“木箱”が映った。
なぜか今日は――
近づいてもいい気がした。
そっと、蓋を開ける。
中には、
何かが入っているのが分かった。
だが――
今は、見る気になれなかった。
蓋を閉じる。
◆ ◆ ◆
【扉の前へ】
夜。
拓海は、道場横の廊下に立っていた。
突き当たり。
何もない“はず”の場所。
だが――
今日は、はっきりと分かる。
空気が、揺れている。
「……これが……扉……」
祖父の声が、脳裏に蘇った。
『行くなら、戻ってこい』
拓海は、震える手を伸ばした。
◆ ◆ ◆
【最初の接触】
指先が――
“空気ではない何か”に触れた。
冷たい。
だが、拒絶ではない。
世界が、一瞬、歪む。
◆ ◆ ◆
【弾かれる】
――次の瞬間。
ドンッ!!
強烈な衝撃が、拓海の身体を吹き飛ばした。
「ぐっ――!!」
背中から畳に叩きつけられる。
扉は、
“まだ来るな”と告げていた。
◆ ◆ ◆
【決意】
拓海は、畳の上で天井を見つめた。
祖父は、もういない。
だが――
扉は、確かにここにあった。
「……必ず、行く」
声は震えながらも、確かだった。
「必ず……あっちへ行って……
じいちゃんの……続きを……」
そして――
必ず、戻ってくる。
【第六話・完】
いつも読んで頂きありがとうございます。
完結まで頑張りますので、宜しくお願いします。




