第53話── 影。揺れる木々。そして“対面”**
森の奥に進むにつれ、
風すら吹かないはずなのに、木々が揺れていた。
ザ……ザザ……
(……いる……
この先に……)
拓海は刀を抜く。
刃がわずかに震えた。
目に見えなくても、
理が確実に告げていた。
「前……だな……」
深呼吸し、一歩進む。
◆ ◆ ◆
“木の影”に、それはいた。
視界の奥。
朽ちた大木の裏に──
何か巨大なものの“影”があった。
最初は輪郭も分からない。
(……でかい……
あれ……木の影じゃない……)
影はゆっくり動く。
ズ……ズズ……
体の内側で、何かがきしむような音。
(あれが……双頭の……大蛇……?
いや……まだ……分からない……)
慎重に近づく。
◆ ◆ ◆
姿を少しだけ見せる──“右の頭”
木の影が揺れる。
次の瞬間──
朽ちた樹皮の間から、
ゆっくりと“何か”が現れた。
ヌ……ル……ッ
(……目……?)
いや、違う。
鱗だ。
黒光りする鱗が、木の影から半分だけ顔を出す。
その大きさは、人間数人分。
呼吸だけで空気が震えた。
(これ……
これが……ガイルたちが戦った……)
その瞬間──
影が“揺らいだ”。
◆ ◆ ◆
気づいた。それもこちらに。
影の奥から、視線の圧が飛んできた。
(……っ!!
見つかった……!!)
刀を構えようとした、その刹那──
“いない”
影が消えていた。
「あ──?」
言葉が出る前に、
背後の空気が“裂けた”。
ズッ!!!!
(速──ッ!?)
考える前に身体が反応する。
横へ飛び、転がった。
◆ ◆ ◆
“回り込み”──全身が現れる
背後の木々が一斉に揺れた。
振り返ると──
そこにいた。
黒い頭。
赤い頭。
太さは大木の三倍。
地面を押し潰すほどの長さ。
そして──
ただ“立っているだけ”で、空気が震える。
(やばい……
こんな……
こんな化け物に……)
黒い頭がゆっくりと持ち上がる。
ギ……ッ……
赤い頭は、舌をゆらりと出し、
腐敗臭を漂わせた。
その二つの目が、
まっすぐ──拓海を見た。
◆ ◆ ◆
殺気。呼吸できない。動けない。
全身の毛穴が逆立つ。
心臓が止まりそうになる。
(……これ……が……
双頭の大蛇……)
逃げる?
無理だ。
背中を向けた瞬間、終わる。
(戦うしか……
ない……!!)
拓海は刀を構えた。
双頭の大蛇は、
ゆっくりと、しかし確実に──
獲物を仕留める動作に入った。




