第52話── 前兆。森が“脈打ち始める”**
森の奥へ進むほど、
空気は濁り、重さを増していく。
足元には黒く変色した土。
木々は皮が剥け、枝先は枯れ落ちている。
(……これ……自然じゃない……)
拓海は足を止め、耳を澄ませた。
◆ ◆ ◆
“音”がする。
風の音ではない。
水の流れでもない。
もっと低く……
もっと鈍く……
腹の底を震わすような“うねる音”。
ゴ……ゴ……ォ……
(……地鳴り……?)
違う。
もっと近い。
もっと、生きている。
そして──
その“音”に合わせて、地面がわずかに震えた。
ド……ン……
ド……ン……
(これ……鼓動……?)
森全体が、
“何か”の鼓動に合わせて震えている。
◆ ◆ ◆
瘴気が濃い。息が苦しい。
空気が粘りつき、
喉の奥が焼けるように痛む。
(瘴気……強すぎる……
これじゃ普通の冒険者なら……
近づく前に倒れる……)
胸の奥がざわつく。
(こんな……
こんな空気の中で……
ガイルたちは……戦ったのか……)
悔しさが身体を震わせる。
(……だからこそ……
俺が行くんだろ)
◆ ◆ ◆
前方、木々が“倒れる音”
静寂の中に、唐突に響いた。
バキッ……!
バキバキバキィィン!!!
巨大な何かが、
木々を押し倒しながら移動している音。
(いる……
近くに……!!)
理が鋭く反応する。
(ガイルを瀕死にした化け物……
双頭の大蛇……)
喉が乾く。
心臓が早鐘を打つ。
でも──
足は止まらなかった。
◆ ◆ ◆
“異質な波動”が身体を貫く
次の瞬間──
森の奥から、空気そのものが震えた。
ズォオオオオッ……!!
目に見えない衝撃が
皮膚を刺すように走る。
「っ……!?」
拓海の足が一瞬止まり、
胸が押し潰されるような感覚に襲われる。
(……これ……
ただの魔物じゃ……ない……)
双頭の大蛇は“魔物”ではなく、
もっと別の存在──
“異界が生んだ災厄”
そのものなのだと、身体で理解した。
◆ ◆ ◆
それでも進む。
呼吸が重い。
視界が揺れる。
(怖い……
正直……足が震えてる……)
でも──
拓海は進む。
(ガイル……
ニーナ……
蒼狼隊のみんな……)
(俺は……
絶対に……逃げない……!!)
拳を強く握り、
拓海は森の“最深部”へ向かった。
そこに──双頭の大蛇がいる。




