第51話── 森の入口。すべてが“死んでいる”**
森の入口に立った瞬間、
拓海は足を止めた。
そこは、異様なほど──静かだった。
風の音もない。
鳥の声もない。
獣の気配すら、ひとつもない。
(……おかしい……
前に来たときは……
こんな森じゃなかった……)
胸の奥が重く沈む。
理が、無言で警告していた。
◆ ◆ ◆
“静寂の理由”
慎重に一歩、また一歩と進む。
そして──
数十メートル歩いたところで、拓海は息を呑んだ。
「……これは……」
理由は明白だった。
そこにあった命が、
すべて死んでいる。
倒れた馬車。
潰れた荷馬馬。
黒焦げになった騎士の盾。
槍を握ったまま崩れ落ちた冒険者。
そして──
森で見かけるはずの魔物たちまでも。
牙を剥き、戦ったままの姿勢で固まり、
体表には黒い斑点が広がり、
すでに息はなかった。
(……双頭の大蛇の……瘴気……?
ここまで……広範囲に……)
大蛇が通った“道筋”そのものが、
死そのものになっている。
◆ ◆ ◆
立ち止まらない理由
拓海は拳を握った。
(ガイルたちが……
こんな場所を……通ってきたのか……)
胸が痛む。
だが、足は止まらない。
いや──止める理由が、ない。
「……行くしかない……」
たとえ理が警告しても、
身体が震えても、
喉が乾いても。
(俺は……戻らない)
拓海は死屍累々の道を進む。
◆ ◆ ◆
“異質な気配”
さらに奥へ進むにつれ、
空気が重く、冷たく、圧し掛かるようになった。
(……なんだ……?
この空気……)
前とは違う。
ただの腐敗や瘴気ではない。
もっと深く、
もっと重く、
もっと“異質”な何かが──
前方にいる。
(わかる……
双頭の大蛇の……
“中心”に近づいてる……)
足が自然と速くなる。
(俺は……絶対に戻らない……!!)
拓海は一歩踏みしめ、
森のさらに奥へ、静かに消えていった。




