第49話── 荷馬車の旗と、絶望の再会**
蒼狼隊の宿舎を飛び出した拓海は、
ただひたすらに森へ続く街道を走っていた。
冷たい風が頬を切る。
地面の感触が薄い。
焦りだけが胸を突き刺していた。
(追いつく……
追いつくんだ……!!)
その時だった。
カラララッ……!
前方から荷馬車が三台、
土煙を上げてこちらへ向かってくる。
馬車の前には
“重傷者搬送”の赤旗が揺れていた。
(嫌な……予感……)
すれ違いざま、
荷馬車の中を一瞬だけ見たその瞬間──
「……えっ……!?」
心臓が跳ねた。
見えたのは 濡れた赤髪。
そして 大きな体を包帯で巻かれた男の影。
(ガイル……!?
ニーナ……!?)
拓海の身体が先に動いた。
「ちょっと!!
止まってくれ!!
そこの荷馬車!!
あいつら、俺の仲間なんだ!!」
ドンッ!!
拓海は荷馬車の前に飛び出し、手を広げて止めた。
◆ ◆ ◆
「来てくれたのか……拓海」
荷馬車が急停止し、
馭者が慌てて叫ぶ。
「危ねぇだろ兄ちゃん!!」
「頼む!!
中を見せてくれ!!」
拓海の必死の声に、
馭者は渋々頷き、荷台の布をめくった。
そこには──
「……ガイル……!!」
蒼狼隊の隊長ガイルが横たわっていた。
胸と腕に深い裂傷。大量の失血。
でも、彼はかすかに笑った。
「……来て、くれたのか……
拓海……」
「当たり前だ!!
遅れて……ごめん……!!」
ガイルの大きな手が、拓海の手を掴んだ。
「……引き返せ……
俺たちは……止められなかった……」
声が震えていた。
「お前じゃ……勝てねぇ……
あれは……“双頭の大蛇”……
全ての……根源……だ……」
「双頭……の……大蛇……?」
その名前を聞いた瞬間、
拓海の背中を冷たいものが走った。
(あれが……ガイルたちを……
Bランクも……騎士団も……
壊した……?)
◆ ◆ ◆
ニーナの姿
「ニーナは!?
無事なのか!!」
拓海が叫ぶと、
別の馬車から看護兵が顔を出した。
「彼女ならこっちだ!」
拓海が飛びつくように覗き込むと──
「……拓海……?」
ニーナがいた。
腕に包帯は巻かれているが、命に別状はない。
ただ、目は涙で濡れていた。
「ごめん……
みんな……みんな……
助けられなかった……
私……私が……弱いから……」
「違う!!」
拓海は震える彼女の手を握った。
「ニーナは──生きてる!
それで十分だ……!!」
ニーナは泣き、うなずいた。
◆ ◆ ◆
ガイルの最後の意識
後ろで、ガイルの呼吸が荒くなる。
「ガイル!!」
「……すまねぇ……
拓海……
あと……頼んだ……
仲間を……
守って……くれ……」
ガイルの手が、拓海の手を離れた。
そのまま──
彼は意識を失った。
「ガイル!?
ガイル!!」
看護兵がすぐに容態を確認する。
「大丈夫だ、まだ息はある!
急いで治療院へ運ぶ!!」
荷馬車が再び動き始めた。
「拓海……
気をつけて……」
と弱く呟いたニーナの声だけが、
森風に消えていった。
◆ ◆ ◆
「俺が行くしかない」
荷馬車の列が遠ざかっていく。
拓海は拳を握り。
息を震わせた。
(双頭の大蛇……
根源……
すべての……元凶……)
(ガイル……
ニーナ……
ソウロウタイ……
誰も……止められなかった……)
(でも──)
拓海は森の方へ振り返り、
静かに目を閉じた。
(俺が……行く。
行くしかない……!!)
そして、再び走り出した。




