第46話── 雪の夜、母の予感。病院の白い天井。**
雪がしんしんと降り続ける深夜。
白石家の庭は静まり返り、
その奥にある道場だけがぽつりと灯りをつけていた。
「……拓海?
まだ起きてるの……?」
食器を片付けていた母・白石美智子は、
ふと違和感に気づいた。
この時間に道場の電気がついているのは、おかしい。
(嫌な予感がする……)
美智子はコートを羽織り、
小雪の舞う庭を踏みしめて道場へ向かった。
「拓海!いるの!?」
返事はない。
扉を開けると──
道場の中央で、拓海が雪の吹き込む縁側に倒れていた。
「……っ!拓海!!!」
◆ ◆ ◆
白い天井、点滴の滴。
拓海が目を覚ましたのは、
病院の柔らかい照明の下だった。
右腕には点滴。
口の中は乾き、体は重い。
(……どこだ……?)
ゆっくりと視線を巡らせると、
看護師がカルテを持って入ってきた。
「あら、起きたのね。
気分はどう?」
「……あ、はい……」
「お母様に感謝しないとね?
あのまま雪の中で倒れてたら、
ほんとに“あの世行き”だったわよ?」
「……そう、なんですか……」
拓海はまだ状況を飲み込めていなかった。
看護師は点滴の滴を確認しながら続ける。
「精密検査は全部正常。
でも……あなた、本当に何してる子?」
「えっ?」
「骨密度も筋肉量も、心肺の回復力も──
普通の高校生じゃまず出ない値よ。
何かスポーツやってる?」
(やってない……
けど……修行は……してる……)
「えっと……ちょっと、体を鍛えてて……」
「ちょっと、ねぇ……?」
看護師は苦笑しながらカルテに書き込む。
「まぁ、とりあえず大事にならなくてよかったわ。
三日間ろくに食べてなかったみたいだし、
低血糖と脱水症状で意識が飛んだみたいね」
(あ……そうか……
ここ三日、食事……ほぼしてなかった……)
大水一閃の修行に没頭しすぎて、
体の限界に気づいていなかった。
◆ ◆ ◆
母の涙と、胸の痛み
「拓海……!」
カーテンが開き、
目を赤くした美智子が駆け寄ってきた。
「ごめん……遅くなった……」
「遅くなったじゃないわよ!!
死ぬところだったのよ!?
何を無茶してるの……!」
拓海は母の手の震えを感じた。
泣きそうな顔を必死に押しこらえている。
(……ごめん……
異世界のこと、言えない……)
「無理しすぎよ……
本当に……」
美智子は拓海の手を握り続けた。
その温かさが、胸に刺さった。
(……戻らないと……
でも……家族も……)
拓海は、異世界への“帰還”を胸の中で噛みしめる。
(あと、少しで……
約束の時間……)
病院の静けさの中、
拓海の決意は静かに燃え続けていた。




