第43話── 最後の一日、濁流は“内”から生まれる
夜明け前。
薄い霧のような冷気が庭を包んでいた。
拓海は刀を地面に突き立て、
疲れた両腕をぶらりと下ろした。
(……雷の奥義は……
結局、二つしか覚えられなかったな)
迅雷空歩
雷刃震撃
どちらも、実戦級だ。
蒼狼隊に胸を張れる──
そう思えるほどに仕上がっていた。
(これなら……
魔紋獣相手でも何とか“通せる”……)
雷は完成した。
問題は──水。
(大水一閃……
これだけが……どうしても……!!)
◆ ◆ ◆
静と動──全ての水の奥義は“ここ”につながっている
拓海は隠し部屋で祖父のメモをもう一度開く。
「大河のごとし。
遮れぬ“一閃”じゃ。
如水流斬の“極”じゃの」
(つまり……
水の奥義は二系統……
“静”と“動”……
その両方の先に……
大水一閃がある……)
如水流斬(三式まで)──静
双断・三断──静と流れ
大水一閃──“動”。
そして、静と動の統合。
(これが完成すれば……
水の奥義は全部だ……!)
だが──
肝心の“濁流”が掴めない。
◆ ◆ ◆
外からではなく、内から──“濁流の正体”
庭に戻り、刀を握る。
目を閉じる。
(濁流……濁流……
川の流れ……大河……)
しかし──
視界に浮かぶのは外側のイメージばかり。
(違う……
これは“外”から借りたイメージだ……
こんなものじゃ大水一閃にならない……)
雨の流れ。
川の流れ。
空気の流れ。
全部“外”のもの。
(じいちゃんが言った……
“理を使え”って……
つまり外ではなく……
自分の中から流れを生むんだ……!)
胸に意識を向ける。
心臓の鼓動。
呼吸の振動。
気の流れ。
それらが、ひとつの“大きなうねり”になっていく。
(濁流って……
自分の中にある大きな“意志”……
それを外に出すんだ……!)
掌が熱くなる。
ド……ド……ド……ッ
意志のうねりが、理と重なり、
身体の中心で渦を巻き始めた。
(これだ……
外にあるんじゃない……
“俺の中”だ……!!)
◆ ◆ ◆
初めて、濁流が“刀身へ”移る
拓海は刀を正面に構える。
中で渦巻く濁流を、
理の力で“刃の一点”へ導く。
ゴォォォ……ッ
空気が揺れた。
庭の草が後ろへ押される。
(押し流してる……!!
まだ“一閃”じゃないけど……
濁流が……刀へ乗り始めてる……!)
刃先がかすかに青白く濁った。
水でも雷でもない。
“押し流す力”だけがそこにあった。
(あと一歩……
あと少しで……!)
◆ ◆ ◆
残された時間──あと一日
気力が尽きて、その場に膝をつく。
「はぁ……っ……
くそ……っ……!!」
焦りが胸を押し潰しそうになる。
(もう……時間が……ない……
約束まで、あと一日……!!
絶対に、間に合わせる……!!)
拓海は刀を強く握り、
夜空を見上げた。
星も月も出ていない。
ただ冷たい風だけが吹き抜ける。
(静と動……
全部を一つにする……
絶対に……大水一閃を完成させる……!!)
その決意は、
濁流よりも深く、
雷よりも鋭く、
確かに拓海の胸に宿っていた。




