第42話── 大水一閃、線では届かない“濁流の理”**
約束の日まで──あと二日。
拓海は庭の真ん中で膝をついていた。
大水一閃の練習を始めて一晩が経つが、
成果はゼロに等しかった。
(……やっぱり……
“線”じゃダメなんだ……)
刀を落としたまま、
濡れた地面をゆっくり撫でる。
(濁流って……
細い線みたいに“形”がない……
もっと……大きな、塊……
押し流す“力そのもの”……)
理の線を読むのは、
拓海が生まれつき得意だった。
戦いの動き、雨の滴、空気の流れ──
全部線で把握してきた。
だが今回は違う。
(大水一閃の“流れ”は……
一本の線で表せるものじゃない……
線の理じゃなくて……
“場の理”なんだ……)
◆ ◆ ◆
濁流の本質──大きすぎて形がない
拓海は刀を置き、
両手をゆっくり前に伸ばす。
雨の日、川を見たときの記憶がよみがえる。
(濁流って……
“どこからどこまでが流れ”とかじゃない……
全部が、ただ押し寄せてくる……
形のない巨大な力……)
そう思った瞬間、
視界に“小さな揺らぎ”が見えた。
(……これ……?)
理の線ではない。
広がっては消え、また生まれる“揺れ”。
(これが……
大水一閃の“起点”……?)
手を動かすと、揺らぎがふわりと動く。
(線の理じゃない……
自分の“内側”の流れ……!)
◆ ◆ ◆
理の使い方を“反転”させろ
祖父のメモを思い返す。
「理を使え。
きっかけさえ掴めば簡単じゃがの」
(じいちゃん……
これ線で捉えようとしたら絶対できないよ……)
如水流斬は線だった。
双断・三断も線の連続だった。
だが、これは違う。
(“線の先”じゃない……
線を全部ひっくり返して……
“面でもなく、塊でもない”……
説明できない大きな流れ……!)
掌に気を集める。
線にしない。
方向を持たせない。
ただ“うねる力”だけを感じる。
ドン……
ドン……
胸の奥で何かが脈打つ。
(これ……
これが……濁流の核……!)
◆ ◆ ◆
初の“同調”──濁流がわずかに形になる
拓海は刀を握り、
その“うねる力”を刃へ添わせた。
(これを……
一本の線にするんじゃない……
刃で“流れそのもの”を抱えるんだ……!)
刀がかすかに震えた。
シュ……ゴォッ……!!
空気が一瞬だけ“押し流された”。
風が横に逃げる。
(いま……一瞬……!)
大水一閃ではない。
まだ“影”にも満たない。
けれど──
(でも……
今までの水技とはまったく違う……!
これが……濁流の入口……!!)
胸が熱くなる。
◆ ◆ ◆
残り二日──焦りと静けさ
夕日が庭を照らす。
拓海は刀を握りしめ、
深く息を吐いた。
「あと二日……
でも……掴んだ……
ここから……絶対に形にする……」
濁流は“線”ではない。
“形のない力”。
それを刀に乗せる技こそ──
大水一閃。
拓海の中で、
何かがゆっくりと形になり始めていた。




