第41話── 白石家最終奥義、大水一閃の入口**
冷たい風が吹き抜ける中、
拓海は隠し部屋で奥義書を開いた。
水の章の最後──
そこに、祖父・源蔵が追加したような
古びた紙片が挟まっていた。
(……これ……じいちゃんの字だ)
墨のにじんだ筆跡で、たった数行。
「大水一閃」
大河のごとし。
どんなものも遮れぬ“一閃”となる。
始めに教えた如水流斬の“極”じゃ。
理を使え。
きっかけさえ掴めば簡単じゃがの。
ただし使用後は隙ができる。
それだけは忘れるな。
読み終わって、拓海は思わず息を呑んだ。
(……如水流斬の“極限”……!?
じゃあこれは……
俺が覚えてきた水の全部の“先”にある技……?)
◆ ◆ ◆
“大河”とは何か──祖父の言葉の意味
拓海は刀を取り、
奥義書の前で静かに構えた。
(大水一閃……
“大河の如く”……)
雨の流れではない。
滴でもない。
水路でもない。
(……川じゃない。
“流れそのもの”……大きな水の意志……)
如水流斬は、
水の性質に沿って“流す”斬撃だった。
その延長である双断、三断もすべて“静の流れ”。
だが──
(大水一閃は……“動”だ。
止められない濁流……!)
水の斬撃を一瞬に“濃縮”し、
一直線に爆発させる。
(今までの水技とは、性質がまったく違う……
流すんじゃない……
押し流すんだ……!)
胸の奥が震えた。
◆ ◆ ◆
理を“水”に変える──新しい使い方
拓海はそっと理の線を読む。
空気、湿度、風、体重の軸──
全部が一本の“流れる線”に変わる。
(如水流斬の時は……
“流れに身を委ねる”だったけど……
今は……“流れを生み出す”んだ)
理の力を前へ押し出し、
気を水の性質に変換する。
すると──
視界の前方に、
“巨大な流れ”の曲線が現れた。
(これが……大水一閃の軌道……!?)
その線は、
河のように太く、
槍のように鋭く、
蛇のようにしなやかだった。
(……一刀で……これ全部を……!?)
背筋が粟立つ。
◆ ◆ ◆
試しの一振り──だが、届かない
「……行くぞ……!」
拓海は全身の力を一点へ集め、
太い“流れ”へ刀を合わせた。
シュウゥッ!!
刀が滑る。
空気が裂ける。
しかし──
ガンッ!!!
空気の“重さ”に押し返され、
刀が流れから弾かれた。
「っ……!!
お、重い……!」
(今までの斬撃の何倍も……
いや……“質”が違う!?)
刀が落ちそうになるほどの反発。
(これが……
“遮れない流れ”の正体……!?
俺のほうが……押し返される……!!)
◆ ◆ ◆
祖父のメモの意味が刺さる
「……きっかけさえ掴めば簡単、か……
じいちゃん……これ、絶対簡単じゃないから……!」
苦笑いしながら、
メモの最後の一行を思い返す。
「ただし使用後は隙ができる」
(……これだけ強い流れを作るんだ。
そりゃ隙もできるよな……)
でも──
その欠点すら“重み”に感じられた。
(ここまでの奥義を遺したんだ……
じいちゃんも……相当苦労したに違いない……)
拓海は刀を握り直す。
「よし……
あと三日……
絶対に掴む……!!」
薄暗い部屋の中で、
再び流れの軌道が揺らぎ始めた。




