第40話── 迫る約束の刻。そして最後の三日**
【異世界・王国首都──酒場の暗い噂】
蒼い牙亭は、
早朝にもかかわらず重苦しい空気に満ちていた。
「……まただってよ」
「また……Bランクのパーティが……?」
「ああ。
森の奥へ入った連中だ。
全滅だとよ」
「王国騎士団も派遣されたらしいぞ。
数十人規模で……でも戻ったのは一部だけだと」
「なんだよそれ……
そんな場所だったか……あの森……」
「蒼狼隊の隊長も
“奥はやばい。深入りするな”って言ってたろ……
あれ、忠告じゃなく
警告 だったんだよ」
一人の冒険者がぽつりと呟いた。
「……Aランク冒険者に徴集令が出たって話、
本当なのか……?」
「本当だ。国が動いてる。
マジで化け物がいるらしい」
誰も笑わなかった。
拓海の名前は、
この噂のどこにも出てこない。
彼は今、この異世界で何が起きているのか知らない。
⸻
◆ ◆ ◆
【現実世界・白石家──拓海の修行は佳境へ】
凍える冬の朝。
拓海は黙々と刀を振っていた。
「……あと三日」
呟く声は小さかった。
(蒼狼隊との約束……
“十日経ったら戻ってこい”って言われた……)
あのときガイルの手は震えていた。
仲間を失ったばかりの目は虚ろだった。
(あんな顔、もう見たくない……
あの人たちに……必要とされたい……)
それだけだった。
異世界で危険が広がっていることなど、
もちろん何も知らない。
ただ──
「仲間が待ってる」という事実だけが、
拓海を焦らせていた。
◆ ◆ ◆
雷刃震撃──実戦級
刀を構え、
雷の気を“糸”のように細く刃先へ導く。
ジリ……ッ
刃先が微かに青白く輝いた。
(ここだ……!!)
切り株に軽く触れた瞬間──
バシュン!!!
切り株が綺麗に二つへ割れた。
「……よし……!!
これなら実戦で使える……!!」
自分でも信じられないほどの成長。
でも──
胸の奥にあるのは喜びではなく、焦燥だった。
(間に合うのか……
大水一閃まで……)
◆ ◆ ◆
残された時間──三日
白石家の庭には、
冷たい風が吹き抜ける。
拓海は刀を握りしめ、
静かに呟いた。
「あと……三日。
蒼狼隊のみんなのところへ……
胸を張って帰るために……」
刀の柄に触れる手が震える。
(今のままじゃ足りない……
あと一つ……
水の奥義……大水一閃……
絶対に覚えてみせる……!!)
その決意は、
誰の命令でも、義務でも、使命でもなく──
“仲間が待っている”という
純粋な約束のためだった。




