第37話 水刃三断、流れが一つになる瞬間**
雨が降り続けて三日目。
白石家の庭は、薄い霧のような雨に包まれていた。
(……今日で決める)
拓海はゆっくりと刀を抜いた。
これまで、
上段 → 中段 → 下段の“流れを繋ぐ”のはできていた。
でも、どうしても“ひっかかり”が消えなかった。
刀の軌道のどこかで
ほんの一瞬、流れが止まる。
それだけで三断は成立しない。
(止まるな……止まったら……水じゃない)
隠し部屋で読んだ祖父の言葉が
胸の奥で何度も響く。
◆ ◆ ◆
“流れが繋がる”感覚の兆し
雨音が少し静まり、
庭に規則的な滴り声だけが響く。
拓海は刀を構え、
雨の線をゆっくりと、一本一本“眺める”ように捉えた。
(三つの線を、同時じゃない。
一つの“川”の中に三つの“石”があるだけ……)
上段の雨。
中段の雨。
下段の雨。
それぞれ別の雨ではなく──
一つの流れの中で“役割が違うだけ”。
(……全部、繋がってる……)
胸が静かに震えた。
◆ ◆ ◆
理の線が一つの“曲線”に変わる
これまでは三本の線が独立していた。
でも今は違った。
視界に一本だけ、
緩やかな弧を描く“曲線”が浮かんだ。
(これ……!
これが“三断の軌道”……!!)
上下三段を
“ひとつの刀の流れ”で繋ぐための曲線。
(この線に沿って……
刀を流す……!!)
◆ ◆ ◆
水刃三断──発動
拓海は、ただ一本の曲線だけを見た。
(行け……!!)
シュッ──!!
上段を斬る。
スッ──!!
その動きが止まらないまま、中段へ“滑る”。
ザシュッ──!!!
下段へ。
身体が勝手に流れるように動いた。
一連の動きが、一呼吸の間に収まった。
雨が、
三つの軌道で美しく裂けた。
上段の雨は大きく二つに。
中段の雨は細かく散り。
下段の雨は刀身の線に沿って滑るように割れた。
(……できた……
間違いなく……“三断”の切れ味……!!)
◆ ◆ ◆
“止まらない”という意味を悟る
技の余韻で呼吸が荒くなる。
(止まらない……って……
こういうことだったんだ……)
三つ斬るんじゃなく、
一つの流れに“刃位を重ねる”。
流れを断たなければ、
三つは自然に斬れる。
(水の如く……
本当に……水になった感覚だ……)
拓海は刀を見つめながら微笑んだ。
◆ ◆ ◆
空気が変わった──雷の気配が寄ってきた
雨が弱まり、
曇り空の下で雷雲の匂いがした。
(次は……雷だな)
雷雲が近づくと、
皮膚が自然にざわついた。
(迅雷空歩……
もっと完成度を上げて……
実戦で使えるようにしないと)
水の技が進んだことで、
雷の気の流れも以前より“鮮明”に感じ取れる。
(理と気……
この二つが重なった時、
大水一閃が視界に出てくるはずだ)
拓海は刀を納め、
家の軒下へ歩く。
「……よし。
次は雷の仕上げだ」
その背中は、
雨の三断以上に鋭い光を宿していた。




