第36話 水刃三断の真意と、“流れ”を繋ぐ感覚**
夜明け前。
拓海はふと目を覚ました。
昨日の修行が頭に残っていて、
眠っていても“線の感覚”だけが残響している。
(……三断って……
本当に“三滴同時”なのか?)
気になって、隠し部屋へ向かった。
◆ ◆ ◆
奥義書を読み返す──気づきの瞬間
淡い青巻物を広げ、
水の項目を丁寧に見直す。
【水刃三断】
「一刀を以て三箇所を流断せよ。
断ち切るべきは“三本の線”に非ず。
流れの中の“三つの位”也」
(……ん?
三つの“位”って……
三滴のことじゃない……?)
さらに読み進める。
「水の如く──
一つの流れに三つの刃位を重ねるが肝」
「連続せよ、止まるな、断つな、繋げ」
(あ……
これ、完全に勘違いしてた……!)
昨日までの解釈:
三滴の雨を“同時に”斬る技
しかし実際は──
一刀で“上・中・下”の三連斬を
流れる一つの軌道で繋げる技
(三滴同時じゃない……
雨を使うのは“気配の読み取り”だけで、
本当の技は──別物だ……!)
(つまり……
刀を止めずに、
上段・中段・下段へ“流し替えていく”……)
とてつもなく難しい。
刀の軌道を瞬時にスイッチする必要がある。
「……これ……昨日の何倍も難しいぞ……」
思わず笑ってしまった。
◆ ◆ ◆
実践──“流れ”を断つな
道場に戻り、刀を構える。
(まずはゆっくり……
流れを止めるな……)
上段から振り下ろし──
中段へ“滑らせ”、
さらに下段へ流す。
シュッ……
スッ……
ザッ……!
(……ぎこちない……
完全に三段階で“止まって”る……!!)
奥義書にはこう書いてある。
「一瞬たりとも流れを止めるな。
止まるは“水”に非ず」
(止まったら負け……
水は止まらない……)
拓海は深呼吸し、
刀を再び上げた。
(理の線……
三つを“順番に”読む……
同時じゃない……
一つずつ……溶けるように……)
シュッ……スッ……ザッ!!
先ほどより滑らかになった。
(おお……
いける……!?)
しかし次の瞬間──
ガンッ!!
刃が床に引っかかった。
「うおっ!?危なっ!!」
下段へ向ける角度が甘く、切り返しが遅れた。
(こんなに難しいんだ……
これ……できたら絶対強い……!)
◆ ◆ ◆
雨で“位”を測る感覚を磨く
朝になり、再び雨が降り始めた。
(昨日までの“三滴斬り”は、
この“位読み”のための練習だったんだな……)
雨粒が落ちる位置。
速さ。
重さの違い。
その“距離の差”が
三段斬りの感覚に近い。
(上段=高い滴
中段=目線の滴
下段=足元の滴……)
雨を見ていると、
三つの位が自然に頭に入ってくる。
(これだ……!!
雨を読む=位を読む……!)
刀を構える。
シュッ──!
スッ──!
ザシュッ──!!
雨の三滴が、
同じ軌道上で“順番に”裂けた。
(……今の……!!
三断の“入口”……!!)
完全な成功ではない。
三滴目の裂け方が弱い。
でも──
確実に近づいている。
◆ ◆ ◆
雷の歩法も前進する
雨が弱まると、
拓海は迅雷空歩の練習に移った。
(空気を纏う……
混ぜる……
線に乗る……)
足裏が軽くしびれる。
パチ……パチ……
帯電が足へ集中し──
ドッ!!
今度は、
庭の端から端へ“瞬きほどの時間”で移動した。
(はえぇ……!!
さっきより確実に安定してる!!)
だが、息が荒れる。
(負荷もデカい……
これも鍛えないと)
水も雷も、
どちらも成長している。
◆ ◆ ◆
気づけば、夜明け前より強くなっていた
夕方。
拓海は濡れた庭を見つめながら呟く。
「三断……必ずできる……
もう少しで……繋がる……!」
雨の匂いの中で、
彼の瞳は静かに燃えていた。




