第35話 迅雷空歩の発動、水刃三断の壁
雷の制御に成功してから二日。
拓海の全身は常に、微細な電気の揺らぎを纏うようになっていた。
(今日こそ……“歩くんじゃない”
一瞬で“消える”ように動くんだ)
奥義書に書かれていた迅雷空歩の説明はたった一行だった。
「空気を断ち、足音を置き去りにせよ」
(簡単に書くなよ、じいちゃん……)
◆ ◆ ◆
迅雷空歩──発動の瞬間
拓海は深呼吸し、足裏に気を込める。
皮膚と空気を混ぜ、
摩擦で微電流を生む。
(吸うな……
混ぜるだけ……
皮膚で感じて……
取り込む……!)
パチパチ……
電気が脚に溜まる。
(ここから……
“弾く”!!)
拓海は地面を蹴った。
ドッ!!
風が割れたような音が鳴る。
(……え?)
気づくと、拓海の身体は
庭の端へワープしたように移動していた。
「っ──は、速っ!!?」
足音が半拍遅れてついてくる。
(これが……迅雷空歩……!!)
成功した瞬間、足が震えた。
でも──
(今のじゃ……まだ甘い。
ただ速いだけ……
次元の“線”を跳び越える感じが足りない)
課題ははっきりしていた。
◆ ◆ ◆
次の試練──水刃三断
雷が形になったことで、
拓海は次の水属性奥義に挑んだ。
(双断が成功した今……
次は“三断”……
三つの雨の線を同時に読む……)
雨の日を待ち、
庭に立つ。
(一本……
二本……
三本……)
だが──
(う……っ!!
視界が……割れる……!!)
三本を同時に読むと、
頭の奥が焼けるように痛む。
(脳が……ついてこれない……)
一滴斬りも双断も、
“線を並べる”感覚だった。
だが三断は違う。
(三つの流れを……
三つの自分で……並列に読む……?
そんなの……できるのかよ……)
刀を振るが──
ザッ……!
当然、成功しない。
二滴は斬れても、
三滴目が必ず落ちる。
(くそ……!
難しすぎる……!)
何度やっても三滴目だけが“残り続けた”。
◆ ◆ ◆
理の力が新しい動きを見せ始める
雨音に打たれながら、拓海は膝に手を置き、息を整えた。
(……理の線……
俺は一本一本を見てきた。
でも……
こんな見方じゃ、三断は絶対無理だ)
視界をぼかす。
線を追わない。
(全体の“流れ”……
雨の“大きな流れ”の中に……
三本の線を埋め込むように……)
すると──
視界が変わった。
三本の線が独立して見えるのではなく、
一つの“流れの中の三つの揺らぎ”として見えた。
(これ……!!
これなら……いける……!!)
刀を構え、足を開く。
「……はッ!!」
シャシュッ!!!
二滴は完全に両断──
しかし三滴目は、やっぱり落ちた。
(でも……
さっきより確実に近づいてる……!)
成功まで“あと一歩”。
確実に感覚が繋がりつつあった。
◆ ◆ ◆
雷もまた、一歩前へ
雨が弱まると、
拓海は迅雷空歩のさらなる練習に移った。
気を脚へ流し、
帯電した空気を薄く纏う。
(今度は……
線を読む……!)
風の線。
大地の線。
重心の線。
それらを重ねて……
ドンッ!!
身体が地面から“滑るように”消えた。
(さっきより……早い……!!
視界もついてきてる……!!)
雷の歩法は
“ただ速い”ではなく
“線に乗って移動する”技だった。
(これ……掴めてきたな……!!)
◆ ◆ ◆
修行はまだ続く
その夜、拓海は布団の中で手を握りしめた。
(双断は完成間近。
三断はあと少し。
雷は……ようやく入口に立ったところ)
まだまだ足りない。
でも、確実に進んでいる。
(絶対に強くなる。
あの森に戻る。
蒼狼隊のみんなを守る────)
拓海の目は、
雨の滴よりも鋭く光っていた。




