第34話 一滴、そして二滴。水刀双断の誕生**
雨の日の修行を始めて八日目。
庭はしとしとと静かな雨に覆われていた。
拓海は道場から刀を持ち出し、
裸足で庭に立つ。
(今日こそ……
一滴だけを捉える……)
雨粒は数万。
彼が見たいのは、たった“一つ”。
深く息を吸う。
気を整える。
理の線が、静かに視界へ滲む。
◆ ◆ ◆
一滴が“世界の中心”に見えた瞬間
(全部じゃない……
その中の……一つだけ……
落ちる速度……空気抵抗……重さ……)
集中を極限まで高める。
すると──
雨の中で、ただ一つの滴だけが、
淡く光った。
(……見えた……!!)
拓海は刀を構え、
呼吸ではなく“気”で拍動を合わせる。
シャッ!!!
風も、雨音も、消えたように感じた。
ポト……ッ
一滴が、
綺麗に二つへ割れて落ちた。
「よっしゃ……!!」
初めての“一滴”成功。
理と感覚がようやく重なった瞬間だった。
◆ ◆ ◆
次の課題──“二滴を同時に捉える”
(次は……二滴同時……
これができなきゃ水刃双断にならない)
雨は止まない。
むしろ激しくなっていく。
(線が……多すぎて……見えない……!!)
雨の軌道を線で読むのは、それだけで脳が悲鳴を上げる。
だが、拓海の中で何かが“繋がりかけていた”。
(一本じゃない……
二本の線を……同じ意識で……
重ねるんじゃなくて……“並べる”……!)
視界に二本の線が浮かぶ。
一本は太く、一本は細い。
落ちる速さが違う。
(この二つ……
同時に……!!)
刀を構え、両の足裏で地を捉える。
「行け……!!」
シャアァッ!!!
二筋の雨が空中で弾け──
ポトッ……ポトッ
庭石の上に左右へ分かれて落ちた。
(できた……!!
二滴……同時に……!!)
それは間違いなく、
水刃双断の最初の成功。
◆ ◆ ◆
雷──“帯電の加減”が分かるようになる
雨が弱くなるにつれ、
拓海はそのまま雷の修行へ移った。
(吸うんじゃない……
皮膚で感じる……
空気を……混ぜる……)
腕に空気が集まり、
皮膚の表面で摩擦し、微弱な電気が走る。
パチ……ッ
(これだ……!
この微弱なところから……
少しだけ強めて……)
過去はここで失敗していた。
強く意識しすぎて、すぐに“バチィィ!!”と感電していたからだ。
(力を抜いて……
ゆっくり……入れていく……)
パチ……パチパチ……
青白い火花が刀に沿って流れる。
(制御できてる……
雷を……“放つ前の圧”……掴めた……!)
拓海は刀を軽く振る。
ビリッ……!
微弱だが、
雷の線が空気を裂いた。
(よし……
これで迅雷空歩の準備ができる……!)
◆ ◆ ◆
水も雷も、やっと“入口”に立った
拓海は刀を納め、
雨上がりの空を見上げた。
(やっと……スタートラインに立てた気がする)
一滴。
二滴。
そして微弱帯電の調整。
どれも小さな成果だが、
命を懸ける戦いでは決定的な差になる。
(ガイルさんたちのところへ……
胸を張って帰るために……
もっと強くなる)
庭の水たまりに映る自分の顔は、
出発の日よりずっと強かった。




