第33話 祖父の隠し部屋と、白石家奥義書の覚醒**
白石家に戻って五日目の朝。
拓海は、雨の修行で濡れた木刀を乾かしながら、
ふと思った。
(……じいちゃんの修行、これで全部じゃないよな)
祖父は生前、時々ぼそりと呟いていた。
「奥義は、表に書くもんじゃない」
「本当に必要なものだけ、見つける奴が見る」
(あれ……ヒントだったのか?)
◆ ◆ ◆
道場の“見えない継ぎ目”
道場の床板は、隅に行くほど古く黒ずんでいる。
拓海はその中で、ひとつ“妙に新しい板”を見つけた。
(こんなの……昔からあったっけ?)
指で押すと──
カチッ
板が、僅かに沈んだ。
(……え!?)
その瞬間、
床の一部が静かに横へスライドし、
暗い階段が現れた。
「……ほんとに隠し部屋……」
喉が鳴り、手のひらが汗ばむ。
(じいちゃん……どんな秘密を残してたの……?)
◆ ◆ ◆
白石家・隠し修行部屋
階段を降りると、
地下にひっそりとした畳敷きの道場があった。
壁には古い巻物がいくつも掛けられ、
中央の台座に一つだけ、
丁寧に布で包まれた巻物が置かれていた。
(これだ……!)
布を取ると──
淡い青色の巻物。
『白石古武術 秘奥義書
──水刃・雷刃之巻』
(一族………やっぱり……代々守ってきたものなんだ)
◆ ◆ ◆
秘奥義書の中身
巻物を広げると、
水と雷、それぞれの奥義が書かれていた。
⸻
【水の真奥義】
・水刃双断
二重の“線”を読み、立体的に斬る技。
・水刃三断
三方向の流れを制御し、一瞬で三連撃。
・大水一閃
大河の流れを刀に宿し、
一点の線に全てを収束させる奥義。
⸻
【雷の初奥義】
・迅雷空歩
空気抵抗を断ち切ることで生まれる高速歩法。
皮膚と血流で空気を取り込み、
帯電を脚へ集中させる技。
⸻
(全部……すごい……
こんなの……本当に俺に扱えるのか……?)
◆ ◆ ◆
巻物の最後の一文
拓海は巻物の最後まで読み、
そこで手が止まった。
『理と気、二つの流れを重ねた者だけが
“大水一閃”に至る。
白石の血の証は努力に宿る。
才能ではない。』
(じいちゃん……)
胸が熱くなる。
あの日の戦いの恐怖を思い出し、拳を握った。
(俺は……もっと強くなる。
守れるようになりたい。
誰も死なせたくない)
拓海は立ち上がった。
「よし……今日からここで修行だ」
◆ ◆ ◆
雷の修行──“空気を取り込め”
まず始めたのは迅雷空歩の修行だった。
(空気を吸うんじゃない……
皮膚で……取り込む……)
裸足になり、
道場の床にそっと足を置く。
呼吸を整え、
足裏から空気を感じ取る。
(くる……?
来い……!)
パチッ
一瞬、足に微かな電気。
「よし……!」
でも──次の瞬間、
バチィィ!!
「痛っ!?!?!
やっべ、これ……めちゃくちゃ危ない……!」
皮膚に吸収する量が多すぎると
一気に帯電して感電する。
(丁度良くやるのが難しいんだな……)
◆ ◆ ◆
水の修行──雨は正直だ
次は水。
雨の日、
拓海は隠し部屋の外へ出た。
(雨の一滴……
一つだけを感じる……)
集中。
集中。
集中。
(……違う……
これ……全部同じじゃない……
一滴ずつ……違う音……!)
怒涛のような雨の音。
でも、その中の一滴だけが
“わずかに重い音”を持っている。
(今だ……!!)
シャッ!
雨粒の三割ほどしか斬れない。
でも──進歩している。
(何日かけてもいい……
絶対に全部覚えてやるからな!)
◆ ◆ ◆
拓海、決意を固める
一日の終わり、
拓海は巻物の前で正座した。
(俺は……理がある。
だからこそ……努力で奥義を掴める)
刀を手に取り、
ゆっくりと息を吐く。
「待ってろよ……
ガイルさん、リーナさん、ヴォルクさん……
必ず戻るから」
その瞳には、
雨の一滴よりも鋭い光が宿っていた。




