第2話 揺れる壁、揺れる心
※本編の物語は第12話から本格始動します
※第1〜11話は「扉が開くまでの記録」です
壁が、揺れた。
そう思ったのは、ほんの一瞬だった。
次の瞬間には、いつも通りの白い壁に戻っている。
(……気のせい、だよな?)
拓海は、じっと廊下の突き当たりを見つめ続けた。
だが、何度見ても“普通の壁”にしか見えない。
それでも――
胸の奥のざわつきだけは、消えなかった。
■ 祖父は、すべてを知っている
道場へ戻ると、祖父・源蔵は黙々と箒を動かしていた。
「……なあ、じいちゃん」
「なんじゃ」
「さっきの廊下さ」
源蔵の手が、ほんの一瞬だけ止まった。
「……何か、見えたか?」
「いや……見えたっていうか……」
拓海は、言葉を選びながら続ける。
「なんかさ。
“向こう側”がある感じがした」
源蔵は、ゆっくりと息を吐いた。
「そうか……」
それ以上、何も言わない。
だが、その横顔だけで分かってしまう。
(……やっぱ、じいちゃんは“知ってる”)
■ 古い木箱
夕方。
拓海は道場の隅で、掃除をしていた。
その時、壁際に置かれた古い木箱が目に入る。
幼い頃からそこにある箱だ。
だが――
(そういえば、一度も中、見たことないな)
鍵は掛かっていない。
そっと蓋をずらすと、軋む音とともに中が見えた。
中には――
・使い込まれた古い刀装具
・破れかけた巻物
・そして、小さな金色の金属片
「……なんだ、これ」
金属片に触れた瞬間。
――ビリッ。
指先に微かな痺れが走った。
「っ……!」
同時に、頭の奥に“何か”が流れ込む。
水。
月。
白い桜。
そして――巨大な“扉”。
拓海は、はっと箱から手を離した。
■ 祖父の叱責
「――勝手に開けたな」
背後から、源蔵の低い声がした。
「っ……ごめん」
祖父は木箱の中を一瞥すると、静かに蓋を閉じた。
「その箱はな、
**“時が来るまで開けてはならぬもの”**じゃ」
「……さっき、触っただけで変な映像が――」
「見えたか」
源蔵は、深く目を閉じた。
「拓海。
お前の“理”は……もう、目を覚まし始めておる」
「……理って、なんなんだよ」
「“世界とつながる力”じゃ」
祖父は、拓海の目をまっすぐに見つめた。
「そして“扉”は、
理を持つ者だけに開く」
■ 近すぎる、異世界
その夜。
拓海は、自分の部屋で眠れずにいた。
目を閉じるたび、
あの白い壁、金属片、扉の映像が蘇る。
(普通の生活に戻りたいだけなのに……)
だが――
廊下の向こうから、微かな“風”の音が聞こえた。
あり得ない。
家の中で、風など吹くはずがない。
「……また、か」
拓海は、静かに布団から起き上がった。
廊下の突き当たり。
昼間と同じ白い壁。
しかし今度は――
はっきりと**“揺れ”**が見えた。
まるで、水面のように。
そして、壁の向こうから。
――冷たい空気が、こちらへ流れ出してくる。
(じいちゃん……)
恐怖と、好奇心と、言いようのない“懐かしさ”。
拓海の胸の奥で、何かが呼応していた。
■ 扉は、まだ開かない
何度も手を伸ばそうとして、やめた。
触れてしまえば、
もう“戻れない”気がしたからだ。
(今じゃ……まだ、だ)
祖父の言葉を思い出す。
『理が強くなれば、見えるようになる』
つまり今は――
“見えてしまっただけ”。
扉は、まだ拓海を“通すつもりはない”。
そう直感した。
その夜、拓海は知らなかった。
自分がすでに――
白石家五百年の因果に、正式に足を踏み入れたことを。
⸻
ー第二話・完ー
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次話はいよいよ
「扉の向こう側の気配」が、より明確になります。
それでは、また次回でお会いしましょう。




