第24話 森の奥、魔物が蠢く気配
黒紋猪が倒れ、森の空気が一瞬だけ静まった。
だが──
その静寂は “不自然な沈黙” だった。
(……空気が……重い)
拓海は刀を握りしめる。
魔獣を斬ったという実感よりも、
全身を撫でるような不気味さの方が勝っていた。
「やっぱり……ただの黒紋猪じゃなかったな」
ガイルが低く呟く。
「ねぇ、この森の……匂い、わかる?」
ヴォルクの耳がピクリと動く。
「……腐敗と……魔力の焦げた匂い……」
リーナの表情が険しくなる。
(腐敗……?)
確かに……
鼻につく嫌な刺激が空気に混じっていた。
──何かが、腐っている。
──何かが、この森で“増えて”いる。
◆ ◆ ◆
より深い“魔物の気配”
蒼狼隊は森の奥へ進む。
道が変わる。
空気が変わる。
音が変わる。
すべてが異様だった。
ザッ……ザリ……
遠くで何かが這う音がした。
「……今の、聞こえた?」
拓海の声が震える。
「おう。嫌な音だ」
ヴォルクが盾を構え直す。
「拓海さん、気を巡らせておいてください」
リーナが静かに告げる。
(気を……巡らせる……)
拓海は気を体に流し、
足裏の違和感まで敏感にする。
──その瞬間。
ひたり……
背中に冷たいものが触れたような感覚。
(う……うわ……)
まるで森そのものが、
こちらの存在を嗅ぎつけ、
獲物として“観察している”ようだった。
◆ ◆ ◆
初めて見る“魔物の影”
さらに進むと、
地面に奇妙なものが落ちていた。
「……何だこれ」
ガイルが拾う。
それは、
黒紋猪の皮が 部分的に溶けたように焼け焦げている ものだった。
「……焦げているのに、焼けた匂いがしません」
リーナが眺める。
「魔力で焼かれたな。
それも……尋常じゃねぇ濃度のやつだ」
ヴォルクが唸る。
(魔力で……焼かれる……?)
黒紋猪の身体を焼いた何者かが、
この森の奥にいる。
「ガイルさん……
これ……やっぱり……」
「ああ。
俺たちの知らねぇ“魔物”がいる可能性がある」
(魔物……)
さっきの黒紋猪以上の存在が……
この森に?
「……見ろ」
リーナが木の根元を指した。
拓海が見た瞬間──息を呑む。
木の幹に“爪”を立てたような跡があった。
だが、その爪跡は──
深さが不自然
幹の内部が黒く腐っている
少なくとも黒紋猪の爪ではない
「……これ、魔獣の攻撃じゃないですよね?」
拓海が震え声で言う。
「こんな深い爪跡……
黒紋猪じゃ無理だ」
ガイルが眉をひそめる。
「おい……気配がする」
ヴォルクの毛が逆立つ。
(気配……?)
拓海の視界にふっと“線”が走る。
(……まただ)
線は……
森のさらに奥へと続いている。
(あの奥に……“何か”いる)
◆ ◆ ◆
──魔物の存在が“音”になる
その時。
ギィィ……ギ……
低く、湿った音が森全体に響いた。
「……なに、今の……」
拓海が息を呑む。
「動物の声ではないわね」
リーナが弓を構える。
「気を張れ。
魔物かもしれん」
ガイルの顔も険しい。
その音は──
泣き声のようにも、
誰かの呻きのようにも聞こえた。
(人……?
いや、違う……)
──これは“魔物の声”。
森全体が、一斉に黙り込んだ。
鳥が鳴かない。
虫の音が止まる。
風まで音を立てない。
(……怖い……
でも、見なきゃいけない……)
拓海の視界に流れた“線”は、
同じ方向を示し続けていた。
その先に、“異変の中心”がある。
「行くぞ」
ガイルが静かに言った。




