第17話 初めての買い物と、異世界のごはん
翌朝。
異世界の空はやわらかい青色で晴れていた。
(よし……今日は買い物だ)
昨日、如水流斬を覚えられた達成感もあって、
拓海の足取りは軽い。
桜の苗木が小さく揺れ、
まるで「行ってこい」と背中を押すように見えた。
◆ ◆ ◆
市場の通りへ
石畳の通りに入ると、
今日も活気ある声が響いていた。
「今日の果実だよー! 甘くてうまいよ!」
「焼きパン焼けたよー! 残りわずか!」
「荷馬車通るぞー! 気をつけな!」
(やっぱ……この街、いい雰囲気だよな)
異世界なのに怖さはない。
むしろ人の温かさが溢れている。
◆ ◆ ◆
パン屋での買い物
昨日から気になっていたパン屋へ足を踏み入れる。
香ばしい小麦と甘い香りが、ふわっと広がる。
「いらっしゃい!」
元気なおばちゃんが笑顔で出迎えた。
拓海は祖父の袋から銀貨を取り出し、
「あの……これで買えますか?」
「銀貨じゃないか! お客さん、太っ腹だねぇ!」
手際よくパンを袋に詰めてくれた。
「また来な! 明日なら蜂蜜パンが出るよ!」
「絶対来ます!」
袋越しの温かさが、胸の奥にも広がった。
◆ ◆ ◆
定食屋で、初めての異世界飯
通りの一角、
湯気の立つ料理の匂いがする小さな食堂を見つけた。
(腹減ったし……入るか)
木の扉を開けると、
ひげ面の店主が振り返る。
「いらっしゃい。空いてる席どうぞ」
拓海は窓際に座った。
「昼定は、魚の煮込みか肉の香草焼き。どっちにする?」
「魚で!」
「はいよ!」
待っている間、
外で働く人たちをぼんやり眺める。
(……こういう生活が、じいちゃんにもあったんだな)
少し胸がきゅっとなった。
そこへ──
湯気の立つ白身魚の煮込みが運ばれた。
「お待ち。魚の昼定だ」
「いただきます……」
一口。
……うまっ!!
知らない味なのに、どこか懐かしい。
優しい出汁と香草の香りが広がる。
「これ……普通に店の味じゃん……」
気づけば完食していた。
「昼定は 小銀貨1枚 ね」
(小銀貨1……1000円くらいか。
意外と安いんだな……)
拓海は祖父から受け継いだ金袋から、
銀貨1枚(5000円) を差し出した。
「これでお願いします」
「銀貨か! 助かるねぇ!」
店主は慣れた手つきで銀貨を崩し、
小銀貨4枚 を皿に置いた。
「はい、お釣り 小銀貨4 な」
「ありがとうございます!」
(本当に……普通に買い物できるんだ……)
小銀貨の光を見て、拓海は少し笑った。
◆ ◆ ◆
夕暮れ、家へ戻る
異世界の家へ戻ると、
桜の苗木が夕日に照らされて白く光っていた。
「……これ、マジで暮らせるぞ」
パンも買えた。
美味い飯も食べた。
技も覚えた。
通貨の感覚もつかめてきた。
(やば……ちょっと楽しくなってきた……)
異世界が“生活の場所”に変わり始めていた。




