特別挿入話 17年前、崩壊の予兆
◆ 異世界・北方の境界付近
長い冬の終わり。
雪原はまだ白く、空は鈍い鉛色をしていた。
四つの影が大地を踏みしめ、北へ向かって進む。
拓海の父
「……この先だ。闇の気配が濃くなっている。」
マーリン(人族・魔術師)
「まさか……ここまで強い残滓が残っているとは。
核の覚醒の前兆か?」
ナッシュ(狼族)
「牙が疼く……嫌な臭いだ。
気を引き締めろよ。」
ベルグド(鬼族)
「来るなら来い……北の化け物どもめ。」
その時、
風が止み、世界から音が消えた。
雪原の影が──揺れた。
◆ 黒の人、出現
マーリン
「……! 来るぞ!!」
影が盛り上がり、
一人の男の形を作りながら立ち上がる。
黒い眼。黒い肌。
その姿は、まるで黒石家の亡霊。
ベルグド
「黒石……の姿!?
なんでこんなところに……!」
拓海父
「気をつけろ。
これは“闇に落ちた黒石の者”だ。」
黒の人
「………………」
声はない。
ただ、影だけが呼吸するように脈打つ。
◆ 開戦
ベルグドが雄叫びを上げ、拳を握りしめた。
ベルグド
「鬼化──解放ッ!!」
筋肉が爆発するように膨れ、
地面を砕いて突っ込む。
しかし──
ベルグド
「なっ……!? 効かねぇ……!」
黒の人は微動だにしない。
次の瞬間、影が跳ねた。
ベルグド
「ぐああッッ!!?」
巨体が簡単に吹き飛ばされ、
雪原を数十メートル転がる。
ナッシュ
「獣化──ッ!!」
狼へ姿を変え、周囲から高速で斬り込む。
しかし影は剣のように伸び、すべてを弾く。
ナッシュ
「こいつ……硬すぎる……!」
マーリン
「……これが初期段階の闇、というわけか。
ならば──焼き払う!!」
魔法陣が展開し、炎が黒影を包むが、
炎が──吸われた。
マーリン
「魔力……喰われた!?」
◆ 拓海父 vs 黒の人
父は一歩、前に出る。
剣を逆手に構え、静かに息を整える。
拓海父
「水心流──“霞打ち”。」
最小の力で、最速の一撃。
影の中心へ吸い込まれるように斬り込む。
だが──
黒の人
「…………」
影が父の刃を“押し返した”。
拓海父
(……っ……!
この影……重い……!)
黒の人の拳が振るわれる。
拓海父
「く……!!」
衝撃が胸を打ち抜き、
父は雪の上を滑りながら後退する。
マーリン
「撤退だ!!今の我々では勝てん!!」
ベルグド
「ぐ……クソッ……!」
ナッシュ
「食われるぞ……!」
黒の人は追ってこない。
ただ立ち尽くし、北の方角を見ている。
拓海父
(……これは、“始まり”だ。)
◆ 異世界の日本家屋・帰還後
古びた縁側に座る源蔵が、
湯飲みを手に父を迎えた。
源蔵
「……見てきたか。」
拓海父
「……はい。
あれは……私たちでは止められません。」
源蔵
「止める必要はない。
“今はまだ”じゃ。」
父が顔を上げる。
源蔵
「闇は一気には広がらん。
わしの見立てでは……
崩壊が本格化するのは二十年後じゃ。」
拓海父
「……二十年……」
源蔵
「今行くのは自殺行為じゃ。
お主はまだ“理”に至っておらん。」
父の拳が震える。
拓海父
「私は……どうすればいいのですか?」
源蔵は静かに笑った。
源蔵
「生きて帰れ。
家族を守れ。
そして──
いつか生まれる“次の世代”に託すんじゃ。」
父
「……」
源蔵
「わしの予測どおりなら……
お主の子は、その頃、理に目覚める。」
父
「……私の、子が。」
源蔵
「そうじゃ。
『理の白石』の血を継ぐ者が、
世界の命運を担うことになる。」
源蔵
「焦るな。
“時”は巡る。
必ず、な。」
父
「……はい。父上。」
この日を境に、
黒の残滓は年を追うごとに勢いを増した。
そして──
二十年後。
源蔵の言葉どおり、
北の終焉の闇が再び動き出す。




