第13話 白石の家と、仲間たちの痕跡
異世界の白石家に足を踏み入れた瞬間、
拓海の胸の奥が、じんと熱を帯びた。
ここは――
初代・弦之丞の時代から、
白石の血を引く者たちが“向こう側”に残してきた、もう一つの家。
そして今、
この家を最後に使っていたのは――
紛れもなく、祖父・源蔵だった。
◆ ◆ ◆
【古民家の空気】
天井の梁は太く、黒く艶を帯びている。
土壁は年季を重ねながらも、ひび一つなく家を支えていた。
戦国の日本そのままの造り。
だが、不思議と“廃墟”の気配はない。
(……じいちゃん……
最近まで、ここに来てたんだ……)
その事実だけで、胸が静かに震えた。
◆ ◆ ◆
【囲炉裏の跡──消えきらぬ温度】
家の中央にある囲炉裏。
灰は冷えている。
だが、炭の匂いはまだ残っていた。
(これ……
そんなに昔の跡じゃない……)
祖父の言葉が、不意に脳裏をよぎる。
『向こうで飲む酒はな、
妙に美味く感じるんじゃ』
冗談めいた言い方だった。
だが今なら分かる。
あれは――本当の話だったのだ。
◆ ◆ ◆
【草履──源蔵と、もう一人分】
土間の隅に並ぶ、二足の草履。
一足は年季が入っている。
もう一足は、それより少しだけ新しい。
(……じいちゃんのと……
それと、もう一人……)
それが誰のものなのか。
今は、まだ考えられなかった。
◆ ◆ ◆
【日本刀──帰ってこなかった武具】
部屋の奥、刀掛けに一本の日本刀。
鞘は欠け、
刀身には薄く錆が浮いている。
だが近づいた瞬間、
拓海の体内を、かすかな“理”が撫でた。
(……これ……
じいちゃんが、最後に使ってた刀……)
確信に近い直感だった。
源蔵は、必要以上に武具の話をしなかった。
だが、この刀だけは――
一度も現実へ持ち帰られなかった。
◆ ◆ ◆
【木箱と、金属の重み】
箪笥の奥に、布袋がいくつも重なっている。
中を確かめると、
金貨、小金貨、銀貨がじゃらりと現れた。
「……やっぱり……」
驚きより、納得の方が勝っていた。
源蔵は時おり、
何も言わずに“まとまった現金”を持ち帰ってきた。
拓海は、
それがどこからの金なのか、深く考えたことがなかった。
今になって、すべてが一つにつながる。
(じいちゃん……
魔物、倒してたんだな……
最後の最後まで……)
◆ ◆ ◆
【残された紙片――父の字】
木箱の底に、数枚の紙切れがあった。
拓海は、一枚ずつ、丁寧に広げる。
⸻
『拓海が生まれた。
必ず、この家に連れてくる。
理があれば、きっと来られる。
——父』
(……父さん……)
⸻
『向こうの仲間は、良い奴ばかりだ。
源蔵さんには、厳しくも感謝しかない。
拓海を育てるなら……いつかここを見せたい。
——父』
⸻
『息子へ。
この家は、お前の家だ。
ここに来る日を、心から願っている』
(……父さん……
俺……来たよ……)
膝から、静かに力が抜けた。
◆ ◆ ◆
【源蔵の声】
──拓海よ。
ワシはあの地の奥まで行った。
だが……弾かれてしもうた。
(……北……)
──それでもな、
異世界との縁までは、切れんかった。
──酒も飲んだ。
魔物も斬った。
仲間とも、よう笑った。
──そのすべてが、
お前につながっておる。
拓海は、何も言えなかった。
ただ――
祖父が“二つの世界のどちらにも生きた人間”だったことだけが、
胸の奥に、静かに刻まれていった。
◆ ◆ ◆
【外へ続く木戸】
土間の奥、外へ通じる木戸が、かすかに揺れている。
(……外だ……)
その向こうから、
商人の声でも、戦の気配でもない――
穏やかな“生活の音”が流れ込んできていた。
「……じいちゃん……
俺……ここから始めるよ」
誰もいない古い家の中で、
拓海は、静かにそう告げた。
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