第二部48話── “影の門”。最初の犠牲者
【黒霧の谷・最奥】
黒死龍ベビーモスの影核を倒した翌日。
四人は谷の最奥──
地図にも載らない“禁域”へと向かっていた。
空気は昨日より冷たい。
森の色さえ灰色が混じっている。
キャス「……なんか……昨日より暗いね……」
ソフィア「影そのものが“呼吸”してる感じ。
初代の気配も濃いわ。」
悠真は前を見据えたまま言う。
悠真「……あいつが何百年も撒いた“闇の種”が芽吹いてる。」
タクは刀を軽く握った。
(昨日のフードの男……
やっぱりこの谷を“見ていた”……
なんで俺たちの名前を……)
そんな思考を押し殺すように前へ踏み出したその時──
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【足跡──複数の人間のもの】
キャスが地面にしゃがみ込む。
キャス「お兄ちゃん……見て……」
地面には複数の足跡が残っていた。
靴の跡。
鎧の爪痕。
そして──何かを引きずった跡。
悠真「公国の探索部隊だな。
団長が言ってた“消息不明の二名”……」
ソフィア「この奥に……?」
(……嫌な予感しかしない)
タクが息を飲んだ瞬間──
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【それは突然、森の奥から現れた】
闇。
ただ黒いだけの闇ではない。
“中に何かが渦巻いている” 種類の闇。
ガァァァァァァ……
キャス「ひっ……!?」
タク「構えろ!!!」
闇が裂け、
“それ”が姿を現した。
鋼の胸当て。
赤い外套。
折れた槍。
──公国の精鋭騎士の一人だった男。
だがその顔は。
ソフィア「……もう……戻らない……」
悠真「完全に……闇に堕ちてるな。」
眼球は黒い霧に溶け、
声帯は破れ、
ただ、苦しみながら“助けて”とも“殺して”とも聞こえる音を漏らす。
元騎士
黒屍・ヴァルム
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【戦闘──しかし今回は“倒せない”】
タク「来るぞ──!!」
ガァァァァァッ!!
黒屍ヴァルムが四足獣のように跳ぶ。
タク「如水──蒼光!!」
蒼光が弾け、横へ流れる。
しかし──
悠真「だめだ!
影が再生してる!!」
ソフィア「光でも“消しきれない”……!?
昨日の黒死龍より再生速度が速い!」
キャスが震える声で叫ぶ。
「お兄ちゃん……あの人……
まだ“助けて”って言ってる……!」
(聞こえる──
苦しい……痛い……寒い……
『だれか……』)
タク「……っ……くそ……!!」
倒せない。
戻せない。
攻撃すれば影が増す。
(これが……初代が言っていた“影の核”──
核を壊していないから、闇は繋がったまま……)
戦いながらタクは気づく。
悠真「タク!!
このままじゃ全滅する!!」
ソフィア「引くよ!!」
タク「キャス!!こっちへ!!」
キャス「うんっ!!」
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【そして──“影の門”が姿を現す】
ソフィアが撤退の道を作る……その瞬間。
大地が“黒に飲まれた”。
ズズズズズ……
キャス「きゃあっ!?地面が……!」
悠真「なんだこの……」
タク「みんな、下がれっ!!」
地面に大きな“黒い円”が浮かび上がる。
ソフィア「……魔法陣じゃない……
“理の陣式”……」
悠真「影の……“門”だ……!」
その門から、黒い腕が伸びる。
キャス「お兄ちゃん!!あれ……!!」
門の奥に──
複数の人影が見えていた。
鎧。
子供。
老婆。
兵士。
すべて“黒い影として溶けかけた人々”。
タクの全身が凍りつく。
タク(……これが……
“闇に落ちた人間の行き着く先”……!)
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【犠牲者──公国騎士ヴァルム】
黒屍ヴァルムが一度だけ、顔を上げた。
黒の霧にまみれながら、
かすかに人の形を取り戻す。
ヴァルム「……た……す……け……
……い……って……くれ……
……家……族……に……」
タク「……っ……!!」
次の瞬間。
黒屍ヴァルムは門に吸い込まれ──
影の中へ飲み込まれた。
キャス「いやぁぁぁぁ……!!」
ソフィア「……最初の……犠牲者。」
悠真が呟く。
「……もう戻らない。
“影の門”に落ちたら……終わりだ。」
タクは震える拳を握りしめた。
(初代……
黒石 清九郎 盛隆──
こんな……地獄を……)
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【門は去り、ただ黒霧だけが残る】
門は消えた。
地面は元の沈黙に戻る。
ソフィア「タク……」
キャスが震える声で言う。
「お兄ちゃん……助けてあげれなかった……
どうすれば……いつか……助けれるの……?」
タクは、言葉を絞り出した。
タク「……助ける方法を……作る。
絶対に……作る。
そのために……俺は強くなる。」
悠真は静かに肩を叩く。
悠真「……行くぞ。
この先に“本当の核”がある。」
四人は進み始めた。
その背後にはもう──
黒屍ヴァルムの影は残っていなかった。
ただ“影の門”の残り香だけが、空気に沈んでいた。
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