第二部44話── 扉の刻印。そして黒死龍ベビーモス
【霧谷・最深部手前】
黒霧の渦の中心へ近づくにつれ、
空気が重く、濁り、肌にまとわりつくようになっていく。
キャスはタクの腕を握りしめ、
「お兄ちゃん……ここ、嫌な感じがする……」
悠真は剣を肩に担ぎながら、
「……さすがに濃いな。
初代の気配が“むこう側”から漏れてる。」
ソフィアは光魔法を周囲に展開させながら、
「理が乱れてる。
普通の魔物の影響じゃない……“造られた空間”に近い。」
そして──
霧が薄くなり、黒い岩壁の廊下が開けた。
その先に、
古い石扉。
そして、何かが刻まれた文字。
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【扉の警告文】
タクたちは足を止めた。
扉の中央に、黒焦げたような文字。
刻まれたというより、“焼き付けられた”ような筆跡。
タクが小声で読む。
「──此の扉を開けし者よ。
必ずや“無限増殖”の餌食となろう。
逃れ得ぬ闇を抱き、
ただ増え続ける絶望を知れ。
黒石 清九郎 盛隆」
空気が震える。
ソフィアが鳥肌を抑えながらつぶやく。
「……やっぱり初代の字だ。
昔読んだ記録とまったく同じ……。」
悠真は苦く笑った。
「これ、初代の“癖字”なんだよな……。
俺、前に一度だけ……闇落ちしかけた時に見た。
……あいつ、俺を見て笑った。」
タク「……あの時、か。」
悠真「(俺は一度実は見てるけど──)
初対面ってことにしとくわ。ややこしいしな。」
キャスは震えた声で言う。
「ねぇ……
“無限増殖”って……どういうこと……?」
ソフィアは真剣な表情で扉を睨む。
「……黒石初代が、長年かけて造った“魔物兵器”。
触れたものを、斬ったものを──分裂させて増やす。
理じゃなく、“呪い”に近いわ。」
タクは息を吸い、刀の柄に手を置く。
「……行くしかない。」
悠真「刀で斬ったら増える。
拳で殴っても噛まれる。
……普通なら詰むぞ?」
タク「普通じゃねぇからな、俺たち四人は。」
ソフィア「その言い方、嫌いじゃない。」
キャス「お兄ちゃん、キャスも戦う!!
……絶対、守る!!」
タクはキャスの頭に手を置き、
「頼りにしてる。」
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【扉、開放】
タクが扉に手をかけた。
──ギィ……ギギギィィィ……ッ……
古い鉄が軋む音。
冷気。
漂う“死の気配”。
そして。
黒い巨大な影が、ゆっくりと姿を現した。
地面を割るほどの重量。
黒いウロコは死んだ龍のようで、
だが体内は脈動し、生き物のようにうごめいている。
胴体の中央に“裂け目”。
そこから、黒い煙が漏れ続けている。
ソフィアの声が震えた。
「……黒死龍……ベビーモス……」
悠真「こいつ、伝説級の……“禁闇兵器”だぞ。」
キャスはタクの背中を掴みながら震えた。
「お、お兄ちゃん……あれ……
生きてる……死んでる……わかんない……!」
タクの喉がごくりと鳴る。
「……最悪だな。
でも……やるぞ。」
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【黒死龍、咆哮】
ベビーモスが裂け目を開き、
グォォォォオオオオオオオオ──ッ……!!
霧谷全体が震える咆哮が響いた。
その瞬間。
黒い肉片が飛び散り──
床に落ちた瞬間、“2体”に変異した。
ソフィア「来た!!無限増殖!!」
悠真「タク!キャス!囲まれるぞ!!」
キャス「お兄ちゃん、キャスいく!!
獣化する!!」
タク「よし……全力でいくぞ!!」
蒼光。
蒼炎。
光風。
獣爪。
四つの力が
黒死龍の影に飲まれる前に──
戦いが、始まった。
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