お弁当を持って娘と遊園地に行く
朝起きて弁当を作る。
娘の好物を一杯使って作る弁当。
娘は動き回らないように可哀想だけど縛ってリビングのソファーの上に寝かせている。
未知の感染病が広がり都市機能は麻痺状態、娘が入院していた病院も閉鎖される事になり昨日連れ帰って来た。
だから娘が入院する前に行きたがっていた遊園地に連れて行こうと思って弁当を作ってる。
遊園地も多分閉鎖されているだろうけどそれならそれでも良い、忍び込んで娘と2人楽しもう。
娘を縛ったまま車に乗せて車を出す。
人気の無い街の中を走り郊外の遊園地に着く。
やっぱり閉鎖されていた。
でも俺たち親子のように閉鎖されていても遊園地で遊びたいと思っているらしい人の姿が、遊園地のアチラコチラにチラホラ見えている。
娘を背中合わせになるように背負い弁当の入ったバッグを首に下げた。
遊園地の鉄柵を乗り越え観覧車まで走る。
観覧車も動いて無いけど鳶職の俺には何の障害にならない。
観覧車の鉄骨に手をかけ天辺付近のゴンドラ目指して登る。
観覧車のゴンドラの中にいる人が俺の方へ腕を伸ばして来るけど、それを避けながら天辺を目指す。
天辺のゴンドラは無人だった。
娘を背中から下ろし座らせる。
首から下げたバッグから弁当を取り出し蓋を開け、楊枝に挿したタコさんウインナーを娘の口元に持って行くけど食べてくれない。
だから自分で食べる。
ゆで卵もミニトマトも肉団子も食べてくれなかった。
作って来た弁当の中身は結局俺の腹に全て収まる。
ジタバタと藻掻く娘を縛っていた紐を解いてあげると、娘は俺の左腕を両手で持ち齧りつく。
「ウグ! クゥー痛えぇぇー!」
娘は俺の腕の肉を引き千切り咀嚼して飲み込み、また俺の腕に齧りつく。
娘は病院で感染病に罹患してゾンビになってしまったのだ。
俺と娘の2人切りの家族、だから娘だけ逝かせずに一緒に親子仲良く逝こうと思い遊園地に来た。
娘を胸を合わせるように抱く。
娘は俺の着ているポロシャツの襟首を掴み首に齧りついた。
頸動脈から血が勢よく噴き出す。
俺はゴンドラの扉を開け、娘を抱いたまま空中に身を投げだした。