5話 チエアルモノ
第5話、よろしくお願いします。
弑逆者…ヤバいってもんじゃない。
その権能は、対象となったものが自身よりも強ければ、自分がそれに勝るように身体能力を底上げするというもの。
キャパはあるものの、かなり幅が広いらしく、私の30倍くらいまでなら難なく越えられるらしい。
そして、もうひとつの権能が、能力を使っている最中に倒した敵の能力を奪い取れるというもの。
私の目の前に立ち塞がる迷宮の守護者はよくて、私の13〜16倍くらいの力しかない。
壁のように見えるそれは、もはや私の敵ではなくなったのだ!
「これでも、くらえぇ!」
「ぐぐぐ」
ほーら見ろ!私の動きについて来れないだろう!
私は、ゴーレムの周りを超スピードで駆け回り、3属性の剣で切り刻んでいく。
要は、ヒットアンドアウェイ作戦だ。
ゴーレムの動き自体は鈍いから、この戦法が有効なのだ。
ある程度まで削った頃、ゴーレムに異変が起きた。
俊敏性と攻撃力が上がったのだ。
私がその身を削り過ぎたわけではなく、小さく圧縮されたような感じ。
そして、それに伴って、私の弑逆者が切れる感覚があった。
強制的に切断されたような切れ方。
つまり、目の前のゴーレムは私の30倍以上の強さを得た、ということだ。
攻撃が重く速い。
単調だった攻撃は、中に人がいるかのように複雑になっていた。
思考加速で認識しながら、避けるので精一杯になってしまっていた。
これは完封は厳しいかもしれない…
そして遂に、ゴーレムの放った流体魔鋼の攻撃が、私のお腹を穿ってしまった。
苦痛無効があるにも関わらず、激しい痛みが襲ってくる。
つまり、本当のピンチということだ。
冗談じゃないよね、ホントに。
せっかく弑逆者で追いついたと思ったら一気に離されるなんて、反則じゃん。
弑逆者使った私が反則とかないけど…
激しい痛みに思わずふらついてしまう。
それを逃すゴームではなく、無数の鋭いトゲが私の体を買いた。
「あああああああああああっ!!」
あまりの痛さに気を失いそうになるが、追ってくる腐食の痛みで叩き起こされる。
私は、迷宮の宝剣の『万物を滅す紅蓮の業火』で溶かしながら脱出するも、立っているのがやっとだった。
ズシンズシン、と私に近づいてくるゴーレムが見える。
ああ、もうおしまいだ...そう思うものの、生にしがみつくのをやめられなかった。
震える体を、剣を杖にして支える。
そしてまた、剣を構えた。
足は生まれたての子鹿のように震えている。
もう弑逆者は当てにならない。
どうせ死ぬなら一矢報いてから死んでやる。
私は心の中でそう決心した。
そして、それは同時に起こった。
『固有スキル【 生存者 】の権能、【 生存本能 】が、使用上限に到達しました。進化条件【 不屈の精神 】を満たしたため、【 生存本能 】を進化させます。これにより、【 生存本能 】は、【 生之智慧 】へと進化しました』
はぁ?迷宮に来てから、私強くなりすぎじゃない?
ま、まぁ、今は都合がいい。
私の体の再生の速度が上がる。
死の淵からここまで回復した私の能力は、先ほどまでと比べ物にならない。
もう、『生存者』がここまで強くなったのなら、『弑逆者』はいらない気がしてきた。
『【 弑逆者 】の統合申請を確認。承諾しました。【 生存者 】と【 弑逆者 】を統合変化させます。これにより、固有スキル、【 知恵者 】を獲得しました』
あれま。
いや、ホントにスキルの入れ替わりが激しいね。
この前『生存者』を獲得したと思えば、もう統合されてしまった。
もう私の頭じゃついていけないね、こりゃ。
能力の把握自体は済んでるから、別に問題はないし…多分。
ええと、権能の方はっと…
【 知恵者 】
『生之智慧』『気配感知』『鑑定』『能力増強』『思考加速』『隠密回避』『空間操作』
oh…
かなり能力が強くなってる…
同じ固有スキルの枠組みなのに、ここまでの差が出るとは、思ってもみなかった。
だが、これなら勝てる。
私は、今一度迫り来るゴーレムを正面に見据えた。
【 名前 】ユーリ・ラナバーズ
【 年齢 】?
【 性別 】女
【 能力 】固有スキル:知恵者
権能: 生之智慧・気配感知・鑑定
能力増強・思考加速・隠密回避
空間操作
魔法:火起こしの魔法
【 実績 】捕食者・一定生存・知的好奇心・危機管理
迷宮の洗礼③・鬼殺し・時は金なり
【 耐性 】苦痛無効・毒無効
【 装備 】迷宮の宝剣
自分でも不思議に思うくらいペースとスキルに関する展開が早い。
ゴーレムが、ユーリの16倍程度なのは、ユーリがそこに辿り着くまでの間、『生存本能』によって能力の底上げが行われていたから、迷宮初日と比べて、圧倒的な力を得ていたから。
迷宮初日のユーリとゴーレムを比べると、だいたい40〜43倍は違う。