16話 出先トラブル
久々の投稿失礼します
私が迷宮主となって早3ヶ月。
迷宮は、順調に育っていた。
迷宮主となった当初は、3階層までだったのが、今となっては5階層まで拡大し、魔物の種類も、あれから12種類ほど増えた。
拡張の仕方は、半透明のボードを操って、あーだこーだすれば拡張できる。
私に語彙力があればあーだこーだの部分を説明できたんだろうけど、無理なので大目に見てもらいたい。
それよりも、今私には、喫緊の課題があった。
「ご飯がないんだよねぇ」
そう。
飯がないのである。
迷宮は拡張できても、食料は作れないのだ。
迷宮主になってからというもの、魔物が向かってこなくなったので、自分から探して狩るのが面倒な私は、食料の確保ができないでいた。
いや、まあ、その気にさえなれば、ご飯のひとつやふたつ取ってこれるよ?
ちゃんと必要にさえなれば私だってできるよ?多分。
てな感じで食料確保を先延ばしにしていた。
「…どうしよっかなぁ…服もないし、街に買いに行こっかな」
「いいんじゃないでしょうか?」
いつのまにか私の後ろに立っていたアスタが、私の独り言を拾った。
「…また今度にーー」
「いいんじゃないでしょうか??」
これはあれだ。
絶対に逃してくれないやつだ。
笑顔が全く笑っていない。
「はい、行きます」
「ええ。私が護衛を務めますので、張り切っていきましょう!」
こうして、私の街行きが決まった。
うう、お家から出たくないよぉ〜…
◇◇◇
私とアスタは、死刻の迷宮から程近い(と言ってもアスタが全力ダッシュで1日ほどかかるが)、オーリーという街に来ていた。
私がまだ育て親と一緒にいた頃に来たことがある。
結構大きな街で、村なんかとは全然違う活気があったことを覚えていたのだが、それがさらに盛り上がっていて、正直驚いた。
「道が…綺麗になってる」
私が驚いたのはそこだ。
以前来た時は、路端は糞尿で汚れ、異臭が立ち込めていたのだ。
「衛生管理が行き届いているようですね…」
「えいせいかんり?なにそれアスタ?」
「おっと…簡単に言えば、綺麗に保つことですかね」
「へぇ、アスタは悪魔だから物知りだね」
「……」
私とアスタは、そんな会話をしながら、通りを歩く。
村では見たことのない料理や可愛い服が並んでいる。
ちなみに、アスタが1番乗り気である。
私の服選びに関して。
よくわからない言葉を呟きながら次々に服に目を移しては私の方をチラチラ見てくる。
…服は任せて、私は食料を探そう。
しばらくして、目的を果たした私は、アスタと合流して帰ることにした。
ちなみに、アスタはありえんくらい服を買い込んで、凄い目立っていたのですぐに見つけることができた。
…というか、食料買ってるときにも思ったけど、このお金、どこからでてきたんだろ?
「少し買い食いしていきましょうか」
なんと!よろしいのですか、アスタさん!
そんな魅力的な餌吊り下げられちゃったら、食いつかないわけにはいかないんですが!?
「はいはい!私あれ食べたい!」
「えーっと…オークケバブ…なかなか美味しそうですね」
「じゃあ?」
「いいですよ。いきましょう」
しゃらい!
思わずガッツポーズをとってしまった私を、道ゆく人が変な子を見る目で見てきていたので、恥ずかしくなって縮こまってしまった。
そんな私をクスッと笑いながら、アスタは『行きましょう』と、私を連れて列に並んだ。
恥ずいよぉ。
シュンとして列に並んでいると、急に叫び声が聞こえた。
「おまえ、強いな!私と戦え!」
女の、よく響き声だった。
声の方に目をやると、赤いショートヘアを揺らした、アスタよりも少し小さい女性がいた。
美人と言って差し支えない部類だ。
そんな彼女は、アスタを指差していた。
「…うざったいですねぇ。ユーリ、すぐに終わらせますから、ちょっと待っていてください」
そう言って列から離れるアスタの顔には、憎々しげな表情が浮かんでいた。
相当キレていらっしゃるご様子だ。
ちょっと見つめると、周りから真っ黒い覇気が漂っている。
そして、それを見た赤毛の女性は、おもしろそうに口角を上げていた。
これは…街がぐちゃぐちゃになりそうだ。
「ユーリとの食事を邪魔した罪は重いぞ、この駄犬」
「私にそんな口聞く奴は初めてだ!ますます楽しめそう!」
片や冷淡に、片や熱烈に、これから始まる先頭に意識を移していった。
…本当に街、大丈夫かな?
◇◇◇
結論から言うと、初めのクロスカウンターで周辺の建物の窓が割れた。
なんなら、壁に亀裂まで走ってしまっている。
あちゃあ、とおもった。
これ、絶対なにかしらの請求が来る奴だ。
「アスタ、やりすぎないでよ〜」
遅すぎる私の願いは、明らか肉が殴り合う音ではないそれに飲み込まれて、消えた。
なんなんだ、コイツはよ〜!最高じゃん!
私は、拳を黒い男と交えながらそう思った。
私もコイツも、本気は出していない。
にも関わらず、タメ張って殴り合えている。
これが意味するところは、この男も、私と同じ覚醒者であると言うことだ。
上に報告したら怒られるんだろうな、などと思いつつも、拳は止められない。
むしろ、速くなっていった。
「おらぁっ!」
「甘いですね。私とユーリの貴重な時間を奪った罪、その身に刻んで差し上げます!」
ユーリ?ああ、あのヒョロイガキのことか。
コイツ、こんなにいい男なのに、縛られてるのか?
こんな強者がガキのお守り…かわいそうに。
「なぁ、あんた、帝国十二真将に来る気はねえか?そんなガキの面倒見るよりも、そっちの方がタメになるって!」
私は、男にそう提案した。
無論、帝国十二真将になればいつでも戦えると言うのが本音にはなるが、一応は善意だ。
こんな凄いやつが、1匹のガキの面倒を見て凡俗に埋もれるのは、どうにも耐え難い。
そう思ってした提案だったのだが、どうやらそれが、やつの琴線に触れてしまったらしい。
先程までとはまるで違う、悍ましいほど澱んだプレッシャーが放たれたのだ。
「貴様」
奴は短くそう言った。
そして次の瞬間には、べきょべきょと、私の肋骨が砕け散る音が脳裏に響く。
私は、目で追うことすら叶わない速度で、鳩尾を深く穿たれていた。
「巫山戯るのも大概にしろ。私のユーリをガキ呼ばわりしたことは万死に値する…!」
そして、軽く投げられたかと思うと、先ほどの拳よりもさらに強い蹴りが、私を壁に突き刺した。
覚醒者は自動で受けた傷を治せる。
それがなければ、私は、さっきの鳩尾への攻撃で死んでいただろう。
こんな気持ち…いつぶりだろうか。
ジンジンと響く痛みが、私の思考をクリアにして、最終的に、『愉しい』以外の感情を全て根こそぎ払いとってしまった。
私じゃ逆立ちしても勝てない相手。
それをどうにかしようと、策を巡らし、技を凝らし、そして最後に大敵を打破する。
それが1番愉しい。
「アハ…つまんねぇ依頼受けたと思ったけど、ボスよりも全然愉しいことに巡り会えちゃった♡」
「チッ…これだから戦狂いは……」
「あんた、名前は?」
「…教えるわけがないだろう」
「だよね〜。じゃ、私が勝ったら教えてもらおうか」
今の私は最高にキマっている。
脳みそがおかしくなりそうなほどに高揚して、痛みが全て悦楽に変わっている。
体はもうすでに回復して、問題なく動くし、痛みもない。
さあ、本気の時間だ。
魔力を練り上げ、体に纏う。
魔法がいまいち理解できない私だったが、魔力操作のセンスはピカイチだった。
それゆえに、専ら肉体の増強に魔力を使うようにしていた。
単純な力でねじ伏せる彼女の戦闘スタイルに、魔力強化はマッチしていたのである。
「第二ラウンド、いくよ?」
「すぐに終わらせてやる。かかってこい、小娘」
私は、男の懐に迷いなく飛び込んだ。




