過去
つまらない人生
親の顔は知らず、奴隷から逃げ出して盗賊になった。
生きるためならそれこそ、あらゆる犯罪を犯した。
どこかで野垂れ死ぬか、捕まって首を吊られるかと思っていたが
まさか古井戸の中に放り投げられるとは誰も思わないだろう。
王都の地下には大きく深い縦穴があった。穴を下りる為に
作られた昇降機に乗らされて底までいき、古井戸のフチに押さえつけられる。
ただただ静かに処刑は行われ、俺は井戸に落とされた。
落ちて死んでいればどれだけよかったかと思わずにはいられない。
自分の手すら見えない暗闇の中、膝まである腐った匂いのする泥をかきわけて沼を進む。
俺と同じように落とされたのか、ぼろきれを着て武器を持った盗賊風情の連中と戦った。
何度殺されてもかならず沼の中から起き上がることができた。
もっとも、それは連中も同じだったが。
沼だけではなく森も、町に城、山も、川も海もあった。
上の世界と違うのは化け物しか居ないということだけだ。
自分の背の倍は巨大で風を操る狼だったり
雷の槍を放つ巨人、見たこともない武器を操るあらゆる武術に
長けた人間、触手だらけの得体の知れない海の生物、
死者を操る深淵の者、炎を操る魔女達。
途方もない時間をかけて全て剣で倒した。
いつしか手に持っていた剣は手と一体となり、
体は何の影響かドス黒い色になっていた。
最後に王座に座る銀色に輝く鎧を纏った人間と戦い勝利し、
そうしていたように座る。
下の世界に落とした連中に復讐を強く願うと、呼応するように
目の前に扉が現れた。
扉を開け、階段を登り地上に出る。
かつての王都に復讐をしに行くために。